その答えを知ったとき,私は本当に驚きました。なんと,彼らは一つのベッドに2人で寝るという「解決策」を採っていたのでした。しかも,必ずしも知り合い同士とは限りません。その日初めて会った人と同じベッドで寝ることも珍しくはないというのです。会社が提供していたベッドは,上下2段のシングルベッド。中国では一般的な,幅が約1mのタイプです。その狭い幅の中に,仲の良い友人や親戚ならまだしも,会社の同僚から「親戚だ」と紹介された人と,その日の晩に一緒に寝ることもあるというのです。さすがに同性同士とのことですが…。

 それでも,冬なら2人で寝ると結構暖かくなるため,まだ我慢できるそうですが,夏場はかなり苦痛だということです。蚊がブンブン飛んでいるクーラーのない部屋の中。簡易的な蚊帳を張り,狭いベッドに2人で寝ている姿は,想像するだけで大変そうです。

 コネを頼った相手が裕福な家庭であれば,それほど大きな苦労はないかもしれません。しかし,決して裕福とは言えない作業員たちを頼った場合は,互いに大変な日々を送ることになるのです。言うまでもなく,作業員として働こうとして地方からやってくる中国人のほとんどは,後者に属します。

 地方からやって来た人は,こうした生活をしながら就職先を探し始めます。深センの場合,一般に会社は工場の門に作業員を募集する紙を張って応募者を待ちます。そして,募集した当日,門の前に並んだ応募者に対し,会社は試験を受けさせたり,面接をしたりして採用か否かを決めます。しかし,良い条件の会社は,応募者が殺到して面接を受けることさえ困難という状況で,なかなか入社などできません。そのため,職を探す人は,今度は会社内部のコネを必死に探すようになっていくのです。

コネを悪用して荒稼ぎ


 ところが,一般の作業員の場合,強力なコネを持っていませんから,知り合いを入社させることは簡単にはできません。そもそも,有力なコネがないから自分が作業員にとどまっているという現実もあります。そこで,作業員は直接の上司や,同郷出身者で会社の地位が自分よりも上の人間に,自分の知り合いを会社で雇ってもらえないかと,ことあるごとに頼むようになるのです。

 中には,地方出身者のこうした厳しい就職状況を悪用し,荒稼ぎをする輩もいます。そうした人間は,会社の人事権を握っている人間や,入社試験で不正操作ができる人間に近づいて関係を築きます。そして,就職先がなくて困っている人を見つけては,彼らから高額な手数料を取って入社させるという手口です。その手数料は,年々増加し,人気のある工場では,1000元以上(1万4000円以上)になるという噂もまことしやかに流れています。

 中国では,多くの場面でコネが必要となり,コネ次第で天国と地獄が分かれてしまう現実が多々あります。こうしたコネにより,中国人の中に「裏の力関係」ができているのです。中国現地工場の場合も,決して例外ではありません。(次回に続く

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