三菱重工業は,航空機の構造部材向けに加熱オーブンを使わずに短時間で硬化できるCFRP(炭素繊強化プラスチック)と新製造方法を開発した。従来法に比べて約40%のコストダウンが可能になると見ている。2015年ごろに小型民間旅客機への採用を目指している。
まずCFRPの母材として,「連鎖硬化ポリマー:CCP(Chain Curing Polymer)」と呼ばれる新素材を開発した。これは,紫外線で表面の一部を硬化させることによって,そこで発生した熱を利用して熱硬化反応を連鎖して起こさせる材料である。主成分はエポキシ樹脂だが,光重合開始剤と熱重合開始剤を適切に組み合わせることによって,硬化反応時の反応熱を次の反応にうまく利用する連鎖反応を起こさせることに成功した。反応としては,まず紫外線によりカチオンが発生してそれが分子を攻撃して重合する「光カチオン硬化」が起こる。その際の熱によってさらに,カチオンが発生し,それによって「熱カチオン硬化」が連鎖的に起こるという仕組みである。
同社はこの樹脂をFRPの成形法であるRTM(レジン・トランスファー・モールディング)法に適用した。RTMとは型内に炭素繊維の織物をセットした後,母材となる樹脂を含浸した後,硬化させる方法である。従来のRTM法では加熱硬化法を採用しているために,型全体を大きな加熱オーブンの中に入れて,加熱硬化させていた(図1)。
これに対して,開発した連鎖硬化ポリマーを使えば,オーブンが必要なく,織物に樹脂を含浸した後,その一端に紫外線を照射するだけで反応が進む(図2)。この方法により同社は,約1m長さのJ型フレームを試作できることを確認した(図3)。オーブンを使った従来法の成形時間が約5時間かかっていたところ,今回の方法は約10分と大幅に短縮できた(反応温度は約180℃)。Jフレームが可能ならば他のT型やI型などフレーム構造材の成形は可能と見ている。フレーム構造材は航空機構造部材の中でも中心的な部材であり,これにより航空機の構造部材の「革新的な製造方法を開発できた」(同社)としている。
CFRPは,米Boeing社の「787」など胴体や主翼の構造部材として既に採用されているが,現状の製造法はCFRPのプリプレグ(繊維に各種樹脂を含浸した成形前のシート)を手作業で貼り付ける「ハンドレイアップ」法という手法が採用されている。構造体を加熱硬化させる巨大なオーブンも必要である。それに比べて,今回の方法ならば,成形サイクルタイムの短縮とオーブンなどの初期投資が必要ない分,「約40%のコストダウンが可能になる」と同社は見ており,それを目標に実用開発を進めるという。
同研究は,経済産業省が2003年から始めた国家プロジェクト「次世代構造部材創製加工技術開発」の一環。2007年には材料・成形法の要素技術の開発を終了させ,続いて実機採用の検討を開始する計画である。2015年ごろの小型民間旅客機への採用を目指すとしている。