USBインタフェースに挿入して使うアダプタ。実演では1対1接続でのデータ伝送を見せた
USBインタフェースに挿入して使うアダプタ。実演では1対1接続でのデータ伝送を見せた
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左が今回使った送受信モジュール基板。中央が,次期品種で利用予定の一回り小さな基板。右は自社開発したアンテナ
左が今回使った送受信モジュール基板。中央が,次期品種で利用予定の一回り小さな基板。右は自社開発したアンテナ
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 滋賀県のベンチャー企業である日本ジー・アイ・ティー(日本GIT)は,超広帯域を利用する無線技術「UWB」の小型送受信アダプタを試作,2005年10月20日に米サンノゼにある同社開発拠点でデータ伝送を実演した( ホームページ)。パソコンのUSBインタフェースに挿入するだけで利用できる。最大100Mビット/秒のデータ伝送速度に対応しており,実演ではMPEG2で符号化した動画データをノート・パソコン間でやりとりした。2006年1月に米ラスベガスで開催される「2006 International CES」で一般に公開する予定。

 日本GITは,元日本アイ・ビー・エムの野洲事業所でノート・パソコンの基板設計に携わっていた技術者を中心とするベンチャー企業。高周波回路の設計技術に強みを持つことから,2001年ころからUWB用チップセットの開発に着手していた。国内のベンチャー企業としては珍しく,チップセットと送受信モジュールの両方の開発を手がけており,既に一部の展示会などで開発品の実演を行っていた。今回の試作品は,3GHz~10GHzの周波数帯で時間幅200psの微小パルスを伝送してデータを送受信する,いわゆるインパルス型のUWB技術を使う。「マルチバンドOFDM技術などを使うUWB方式に比較して送受信回路の構成を簡略化できる」(日本GIT)とし,早期の製品化を目指している。このアダプタは,送受信モジュールやRFチップの開発が順調に進んでいることをアピールするために開発したもの。同社はパソコン周辺機器に限らず,家庭のAV機器での無線動画伝送用途への採用を狙っている。

 試作したアダプタには,同社が独自開発したGaAs製RFトランシーバICに加え,ベースバンド処理を担うFPGAおよびUSBコントローラ用LSIを実装した18mm×50mmの送受信モジュールを使う。このうちFPGAは,近々専用ベースバンドICに置き換える予定。これによって現在のところ最大500mW程度の消費電力を,約250mW程度まで下げられると見込んでいる。さらに2007年前半までには,データ伝送速度を落とす代わりに消費電力を25mW程度まで下げた携帯機器向けチップセットを開発する予定だ。

 実演では,2台のノート・パソコン間において動画データをやりとりした。送信出力の平均値は−55dBm/MHz程度であり,約5mの伝送距離を確保しているという。受信感度は現在のところ−60dBm前後だが,「GaAs製のRFトランシーバICの特性改善により近々−80dBm程度まで高められる」(日本GIT)という。アンテナも独自に開発したバイコニカル型を使っている。データの変調方式にはPPM(パルス位置変調)を使う。

 現在は3GHz~10GHzの周波数帯を使っているが,5GHz~10GHzといった高い周波数帯のみ使うことも可能。送信出力や利用周波数を変えることで各国の周波数規制に対応していく方針だ。製造コストについては「RFトランシーバICなどは回路構成が簡易であり,製造コストも低減できる。例えばUSBアダプタであれば,最終製品価格が2個で1万円というのもムリな話ではない」(日本GIT)とし,量産時においては価格低減が可能とする見通しを示した。