Intel社の基調講演。会場後方には立ち見の参加者も
Intel社の基調講演。会場後方には立ち見の参加者も
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 高速電力線通信を推進する米業界団体「 HomePlug Powerline Alliance 」は,2005年9月27日~28日まで米カリフォルニア州で 技術セミナー を開催した。ソニーや米Intel Corp.が電力線通信のホーム・ネットワーク利用への期待を語るとあって,会場には関連メーカー担当者が多数参加し,会場が満杯になるほどの盛況を示した。

 基調講演には,Intel社でデジタルホーム関連ビジネスを統括するDon MacDonald氏が登壇した。Intel社は2005年8月にHomePlug Powerline AllianceのPresidentとしてスタッフを送り込み,IDFでもデモを見せるなど積極的な活動ぶりを示している。MacDonald氏は講演で,ホーム・ネットワークの担当者として電力線に期待する理由について語り,「ホーム・ネットワークでHDTVコンテンツをやりとりする時代が近づいている。我々は次世代光ディスク媒体を使ったプレーヤ/レコーダに関する発表を行ったが,これはHDTVコンテンツ時代を見据えた一つの動きだ。すぐに,数十Mビット/秒から数百Mビット/秒のネットワークが家庭で必要になる。この際の伝送媒体には無線が有力な候補だ。しかし無線技術だけでは決して十分ではない。異なる部屋間で接続する場合など,現状の技術では不安な面もある。HomePlugが推進するHomePlug AVでは,数百Mビット/秒の伝送速度があり,QoS機能もある。家庭でHDTVの動画コンテンツをやりとりするうえで,非常に向いた技術だと考えている。このため,活動を強くサポートする」(Intel社のMacDonald氏)という。会場では電力線通信用アダプタを使い,高画質の動画データをパソコンからテレビ受像機に伝送する実演も見せた。

 基調講演後には,HomePlugの担当者から,現在作業中あるいは策定済みである4つの仕様に関する状況報告があった。最大データ伝送速度が14Mビット/秒の「HomePlug 1.0」,同200Mビット/秒の「HomePlug AV」,屋外のアクセス回線向けの「HomePlug Access BPL」,そして家庭の制御系ネットワークへの適用を目指す「HomePlug Command & Control(C&C)」である。まず,2001年6月に仕様が確定済みのHomePlug 1.0では,これまでに約300万個の関連製品が出荷されたことを述べた。部屋間を接続する小型のEthernetアダプタが中心で,価格が100米ドル台の製品も出回っているという。HomePlug AVはHDTVの動画伝送に向けた規格で,2005年8月に仕様がほぼ確定したばかり。現在半導体メーカーがチップ開発に着手しており,3カ月~6カ月後にはチップが製品化される見込みという。このほかHomePlug Access BPLとC&Cは現在仕様策定中である。

複数台のパソコン接続から,デジタル家電同士の接続へ

 これらのうちでホーム・ネットワークの伝送規格として最も注目を集めているのがHomePlug AVである。ソニーの担当者は,講演でHomePlug AVに注力する理由について語った。

 まず同社のユーザー調査を基にしたホーム・ネットワークの利用状況について述べた。「2003年から2004年にかけてホーム・ネットワークの利用状況に変化が訪れている。これまでは複数のパソコンを接続してファイル共有するといった使い方が広がっていたが,ここへきてそうした使い方の伸びは一服している。一方,パソコンでダウンロードした音楽をステレオで聴くユーザーは,1年で142%増加した。デジタル・カメラで撮影した静止画/動画をテレビ受像機で見るユーザーは137%増加し,パソコンに格納したイメージをテレビ受像機で見るユーザーも173%の増加となっている」という。これまでのホーム・ネットワークは複数台のパソコン同士を接続する用途が中心だったが,ここへきて異なる種類の家電機器を相互に接続し,静止画や動画をやりとりする用途が急速に増えてきていることを示し,デジタル家電のホーム・ネットワークの現実性が高まっていることを示した。

 このうえで,HDTVコンテンツ時代のホーム・ネットワークに必要な要素として,(1)宅内で95%以上のカバレッジがあること,(2)HDTVのAVストリームを複数伝送できるだけの帯域があること,(3)現行利用されている無線LANやEthernetのネットワークとのブリッジ機能があること,の3点を挙げた。無線LANや電話線/同軸ケーブル利用のネットワークは,これらの要素を満たせないという。「例えば無線LANは,カバレッジが十分でない。Ethernetは配線が容易でない。電話線や同軸ケーブルは,すべての部屋で利用できるわけではない」(ソニーの担当者)。このほかにもネットワークに不慣れなAVユーザーが,新たな配線の敷設無く簡単にセットアップできるという「User Frendliness」や,アマチュア無線や短波放送との干渉無く利用できる「Coexistence」,異なるメーカー間での互換性を確保するための「Compatibility」,不正コピー防止といった「Security&Privacy」といったキーワードを挙げて説明した。「HomePlug AVはこれらの要素を兼ね備えており,ホーム・ネットワークのバックボーンとして非常に高いポテンシャルを備えている」(ソニーの担当者)と結論付けた。

 ソニーは松下電器産業や三菱電機とともに,高速電力線通信の標準化団体「CEPCA(CE PLC Alliance)」を立ち上げている。HomePlugとCEPCAの関連についてソニー担当者は,「米国ではHomePlugの勢いが強く,業界標準になりそうだ。ただし日本ではどうなるかまったくわからない。CEPCAは複数の伝送技術の共存を目指したもので,HomePlugの活動とは性質が異なる」と述べた。