知的財産高等裁判所(知財高裁)は2005年9月30日,いわゆる「一太郎訴訟」についてジャストシステムの逆転勝訴となる判決を言い渡した(Tech-On! 関連記事)。主文は3項目。(1)東京地方裁判所が2005年2月1日に出した原判決を取り消す,(2)被控訴人(松下電器産業)の請求をいずれも棄却する,(3)訴訟費用は第1審,第2審とも被控訴人の負担とする---である。控訴人であるジャストシステムの主張を全面的に認めるものだ(判決文の全文)。

 今回の訴訟における最大の争点は,ヘルプ表示に関する松下電器産業の特許(特許番号第2803236号)の有効性である。すなわち今回の特許について特許無効審判が提起された場合に無効とされるべきか否か,今回の特許の行使が許されるか否か,である。

「HP社のアプリで同様の機能が存在」

 ジャストシステムは控訴審において,米Hewlett-Packard Co.が開発した「HPニューウェイブ環境」というアプリケーション・ソフトが,今回の特許が出願された1989年10月31日より前に公知であったとの主張を追加した。その証拠として,1989年8月に発行された書籍『HPニューウェイブ環境ヘルプ・ファシリティ』(ヴィッキー・スピルマン=ユージン・ジェイ・ウォング著)を提出した。

 同書には「スクリーン/メニュー・ヘルプ」について言及されている。そこには,(1)ユーザーがスクリーン/メニュー・ヘルプを選択するとカーソルが「?」マークに変わる,(2)その状態で何らかのアイテムを選択すると,そのアイテムについての情報が表示される,(3)ヘルプ・ウインドウが表示された後,カーソルは元の状態に戻る---といった内容が記載されている。

 知財高裁では同書を基に,松下電器産業の特許とHPニューウェイブ環境を対比した。その上で,両者の機能は大半の部分で一致していると認定している。なお,松下電器産業の2803236特許でヘルプを起動する際に「アイコンを選択する」とされているものがHPニューウェイブ環境では「プルダウン・メニューからアイテムを選択する」となっているなど,両者の間に若干の違いはある。しかし知財高裁は,当時すでにアイコンが周知の技術であったことや,機能を実行する手段としてアイコンとプルダウン・メニューのどちらを選択するかは技術的な設計事項に過ぎないことなどを指摘した。

 こうした状況を基に知財高裁は,松下電器産業が申請し成立した特許について,HP社の先行発明などに基づいて容易に発明することができたと判断した。これにより,松下電器産業の特許は「特許無効審判により無効にされるべきもの」と認定,松下電器産業がこの特許を行使することを認めないという判断を下した。

松下は「第三者の知財を尊重する」と声明

 今回の判決を受けジャストシステムと松下電器産業は,それぞれコメントを発表した。ジャストシステムは判決について「当社の主張を認めた妥当なものである」と述べた上で,「ソフトウェアに関連する特許権の行使に対し,一定の歯止めをかけた点で,評価できる」と指摘した(ジャストシステムの声明文)。

 松下電器産業は,「控訴理由に対する当社の反論が認められず,高裁で新たに提出された資料により特許無効の判断が示されたことは大変残念に思う」とした。なお,同社は声明文の中で「当社の知的財産権も尊重されるべき」と主張する一方で「当社は創業以来,知的財産権を尊重する会社であり,第三者の知的財産権を尊重する」との文言を盛りこんでいる。上告するか否かなど今後の対応については,「判決の内容を詳細に検討した上で決定する」と述べるにとどまった(松下電器産業の声明文)。