総務省は,今回で9回目となる「高速電力線搬送通信に関する研究会」を開催した。研究会では座長が高速電力線通信(PLC)の漏洩電波の強さに関する規制値案を提示した。研究会の座長を務める東北大学教授の杉浦 行氏は,今回の案を「これで行くしかない。これがダメなら研究会は解散」と,事実上の最終案とする強い姿勢を示した。総務省は2005年10月中にも同研究会の結論を取りまとめ,高速電力通信の規制緩和に関して情報通信審議会に諮問する見通しとなった。

規制値はコモン・モード電流の強さで規定

 今回,座長が提示した規制値案は,PLCモデムのコモン・モード電流を準ピーク値で30dBμA以下にする,というもの。この値は,コンピュータや通信機器の通信ポートに流れる電流によって発生する漏洩電波が,AMラジオに悪影響を与えないための国際規格「CISPR 22」のクラスBの通信ポートに関する電流許容値に等しい。

 ただし,杉浦氏はこの値について,ベースはCISPR 22とは無関係に算出したとする。基本的な考え方は,短波帯(2MHz~30MHz)の外部雑音の強さを基に,家庭でPLCを利用した場合に漏洩する電波の強さを,ほとんどの場合にその外部雑音と同レベル以下に抑える,というものだ。

 具体的にはこの外部雑音は,1970年代に実測したデータによると2MHz~10MHzでは6dBμV/m(田園環境),16dBμV/m(商業環境)となる。この強さの漏洩電波を出すコモン・モード電流は,日本の一般家屋の電力用屋内配線の平衡度を16dB以上と仮定すると,2MHz~10MHzで準ピーク値で36.0dBμA(田園環境),同38dBμA(商業環境)。10MHz~30MHzの場合も同様に21.0dBμA(田園環境)と33.0dBμA(商業環境)となる。これらの値の平均を取ると32dBμAとなる。これを踏まえて最終的に,「CISPR 22など国際規格との整合性を考えて30dBμAという値に決めた」(杉浦氏)とする。

 実際には平衡度の値は,電力用屋内配線ごとに異なり,約36dBを中心した10dB~70dBの間で統計的な分布をしている。上の計算で利用した「平衡度が16dB以上」という仮定は,日本の家屋の99%で成り立つことになる。平衡度の値が大きいほど,漏洩電波が出にくくなるため,「外部雑音レベルの漏洩電波が出るのは,1%の確率でしかない」(杉浦氏)という。