赤,黄,青の信号など,それぞれの色をはっきりと区別させたい場合には,単色性に優れる発光ダイオード(LED)は適した光源と言えるだろう。しかし,照明にLEDを用いる場合には,かえってこの性質が裏目に出る。今の白色LEDには,黄色の蛍光体と青色LEDを組み合わせたものが使われているが,この場合緑色,赤色の欠如から,蛍光灯のような自然な暖かみのある白色を再現することが難しかった。京都大学 工学研究科 電子工学専攻 光材料物性工学分野 講師の船戸 充氏は,2005年7月25日に京都ナノテククラスターが主催した「第2回KYO-NANOフォトニックセミナー ─レーザーとものづくり─」で,制御された「かまぼこ状」の微細構造にLEDのサンドイッチ構造を作製し,蛍光体を使わずに多色発光するLEDの研究を報告した。

 LEDは化合物半導体の発光層で電子と正孔が再結合することによって発光する。その時の発光色はバンドギャップの大きさによって決まる。これは化合物半導体の組成や膜厚によって決まってしまうために,一般的なLEDの二次元的構造では単色性の高い光にならざるをえず,逆に白色のような中間的な色を再現することが難しかった。

 そこで船戸氏は,あらかじめストライプパターンを作りこんだ窒化ガリウム(GaN)基板上に,結晶再成長の技術を用いて,写真に示すような「かまぼこ状」のナノ構造を作製し,その上に窒化インジウムガリウム(InGaN)の発光層を形成させたサンドイッチ構造を作製した。

 この場合,ナノ構造の頂上部分と傾斜部分,側面部分でGaNの結晶面が異なるために,その上に成長するInGaN層の組成や膜厚が異なり,それにともない面ごとに発光色は異なってくる。例えば,このかまぼこ状のナノ構造の頂上部分は黄色,傾斜部分は青色,側面部分は紫色といったように,蛍光体を用いずに一つのLEDチップで様々な色を同時に発光させて,白色光を得ることに成功している。

 この結晶再成長の技術では,あらかじめ再結晶に用いマスクパターンを変えればナノ構造の形態が変わることが分かっており,これを制御して結晶面やその数を制御できれば任意の発光色を実現することが可能と船戸氏は述べている。なおこの研究は,船戸氏が,同じ研究室の助教授である川上養一氏と博士課程学生の西塚幸司氏,および日亜化学工業と共同で進めている。

 本報告が行われた「第2回 KYO-NANOフォトニックセミナー」では,京都ナノテククラスターの「フォトニック技術の確立」研究代表である京都大学 教授 工学研究科 材料化学専攻 教授の平尾 一之氏の総括のもと,フェムト秒レーザーによる加工やその新規応用を中心に6つの講演が行われた。(辻野 貴志

【写真】船戸氏らが独自に開発したサンドイッチ構造のLED
【写真】船戸氏らが独自に開発したサンドイッチ構造のLED