価格競争が激化している液晶テレビ。イオンが10万円の32インチ型テレビを発売するなど,次々と低価格の製品が登場している(Tech-On!関連記事1)。薄型テレビ用の画像処理LSIメーカーも短期間で低価格の液晶テレビを製品化できることをウリにするリファレンス・デザインを発表するなど,しばらく低価格競争に歯止めがかかりそうにない(同関連記事2)。こうした状況の中,ユニデンは2005年10月に液晶テレビ市場に参入する。32インチ型~20インチ型の液晶テレビを国内市場に投入する予定だ。競争が激化する国内市場での勝算について,ユニデン 技術本部 上席執行役員の板橋隆夫氏に聞いた。
——液晶テレビ市場に参入した理由は。
板橋氏 ユニデンはコードレス電話機など,従来は主に音声機器を得意とする会社だった。IP(internet protocol)関連の通信技術も培ってきた。しかし,これからデジタル家電が家庭内ネットワークでつながる時代を迎えようとする中で,映像とオーディオの技術を持っていなかった。今の時点でこうした技術を磨き,ネットワーク家電時代への布石を打っておきたい。技術を磨く上でもやみくもにデジタル家電を手掛ければいいわけではない。家庭になくてはならない存在感を持ち,しっかりとした市場がある製品,それがテレビだった。
——市場には低価格の液晶テレビが次々と登場している。ユニデンの強みは何か。
板橋氏 まずは画質と音質だ。一流メーカーの同じクラスの製品と比べて同等以上と自負している。基幹部品は自社開発ではなく,例えば液晶パネルは台湾製(本誌注:Chi Mei Optoelectronics Corp.(CMO)製と見られる),画像処理LSIは国内大手メーカー製である。しかし,各部品の性能を最大限に引き出すようにしている。例えば国内大手メーカーの独自技術のように,多くの開発費を費やさなくても「ここまでの絵が出るのか」という驚きを与えたい。白つぶれや黒つぶれを抑える,肌色がきれいに出るなど絵作りの基本はキッチリ押さえている。今回はインターネットでの販売のみを予定しているが,店頭で大手電機メーカーの薄型テレビと並べられて恥ずかしいモノを作っているつもりはない。
——自社開発の部分はどこか。
板橋氏 液晶パネル,画像処理LSI,HDMI(high definition multimedia interface)用LSIなど電子部品のほとんどは他社から調達している。ただし,プリント配線基板は自社設計で,画像処理やユーザー・インタフェースなど液晶テレビで肝となるソフトウエアは自社で手掛けている。設計開発は東京,金型製造や筐体の成形,塗装,テレビの組み立てなどの工程は中国深センで行っている。
——激しい競争の中で生き残っていけるのか。
板橋氏 低価格をウリにする新興メーカーの製品とは「絵」が違う。こうしたメーカーの製品は,画像処理での破綻も多く見られる。画像処理には膨大なパラメータがあり,技術者が経験を元に各パラメータの間の関連付けなどを勘案しながら設定値を追い込んでいくもの。我々のテレビはこうした絵作りに力を入れた。
もちろん,CRTの製造を手掛けてきたような国内の大手メーカーは絵作りに関する多くのノウハウを持っている。しかし,我々は開発体制と商品企画で大手メーカーにないものを持っている。開発体制については,開発人員が大手メーカーの1/10~1/15と身軽で,決定も早い。テレビ受像機をイチから作るのに通常は1年半程度かかるが,我々は1年以内で完成させた。大手メーカーでは1つのテレビ受像機を作るために多くの部署をまたがなければならず,部署間の垣根を取り払おうとしても,実際はなかなか難しい。
もう1つの商品企画については,高付加価値を求める大手メーカーは,どうしても高機能,高画質の追求に偏る傾向が強い。しかし高画質化については,ユーザーが見ても大きな違いが分からない程度まで高まっており,投資額に対する画質の改善効果はどんどん小さくなっている。我々は最高の性能を追わず,ユーザー数が多い「すそ野」を最初からあえて狙った。機能面はHDMIインタフェースなどユーザーが必要とする最小限に絞り,手軽な価格を実現した。これは大手メーカーにはまかなか真似できないだろう。