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阪大と東北大,従来の枠組みを超えた共同研究システム「新産業物質基盤技術研究センター」設立で発足式開催

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2005/07/28 00:00
佐藤 銀平
出典:日経ナノテクノロジー, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)
 東北大学 多元物質科学研究所(多元研)大阪大学 産業科学研究所(産研)による「新産業創造物質基盤技術研究センター(物質基盤センター)」の発足記念講演会が2005年7月25日に東京都千代田区の学士会館で開催された。この物質基盤センターは,個別の大学内での連合といった従来の枠組みを超え,相補的な連携を行って5年間のプロジェクト研究を展開。大学主導で新産業の創造に貢献することを目的としているが,このような形の研究センターの設置は初めての試みである。この講演会には,東北大学 総長の吉本 高志氏大阪大学 副学長の馬越 佑吉氏をはじめとして,両研究所,産業界から約100人が集まった。

この物質基盤センターは,すでに2005年4月1日に発足ている。多元研と産研という附置研究所間での連携によって生まれたものである。大学の附置研究所は,共同利用サービスや教育といった負担が少ないため,この自由度を活用して幅広い共同研究を行ってきた。今回,このような附置研究所が連携することによって,産業界との包括共同研究など従来にない展開が望めるという。現在,企業会員は20数社を数える。

 記念講演会では,まず多元研 所長の中西 八郎氏(写真1)と産研 所長の川合 知二氏が挨拶を行い,それぞれの研究所の概要について紹介した。多元研は,有機,無機,生体など,従来は別々に研究されてきた物質群の壁を取り払って研究を行う「多元物質科学」を実践。具体的には材料,ナノテクノロジー,情報,環境,生命を重点研究分野としている。一方,産研はナノサイエンス・ナノテクノロジーを基盤に,生体,材料,情報に関する学際融合科学と新産業創造の確立を目指している。

 続いて,物質基盤センターの内容について,多元研の新産業物質基盤技術研究センター長である中西氏と産研の新産業物質基盤技術研究センター長である真嶋 哲朗氏(写真2)が紹介した。中西氏によれば,多元研(素材工学研究所,科学計測研究所,反応化学研究所が融合して2001年4月発足)と産研は,すでに8年以上にわたり交流と共同研究を行ってきたと言う。「これまでの実績からすれば,両研究所は産業界との付き合い,総合理工学研究という面から,大きなポテンシャルを持っている。今回の相補的な連携によって,両研究所の相互作用によりさらに企業との共同研究や包括共同研究が拡大していく」(中西氏)と述べた。

 真嶋氏は,物質基盤センターの構成と具体的な研究を紹介。センターは,P1「材料基盤研究プロジェクト」とP2「安全・安心ヒューマンインターフェース研究プロジェクト」の2つのプロジェクトで構成。P1にはG1「ハード材料基盤研究グループ」とG2「ソフト材料基盤研究グループ」,P2には「医療基盤研究グループ」とG4「ヒューマンインターフェース研究グループ」がある。それぞれの研究所に4グループずつ,計8グループ体制となっており,各グループは相補的な組合せの人員配置を行い,さらに企業からの研究者を加えて研究を推進すると言う。真嶋氏は,「大学はシーズ研究が主体的だったが,これからは産業界のニーズに合わせた連携研究を推進していく。企業・産研・多元研という三位一体の研究を進めることにより,新産業の創造を目指したい」と述べた。

 来賓の挨拶では,大阪大学 副学長の馬越氏は「大学の連携のモデルケースになると確信した。川合さんは産研のミッションは『尊敬される化学』と『役に立つ技術』を生み出すとおっしゃった。ぜひ役立つ技術を生み出し,我が国の活性化につなげてほしい」とエールを送った。また,産業界からは,豊田中央研究所 代表取締役の加藤 伸一氏が挨拶。「我々産業界が参画することによって,大学の知恵を企業の応用研究や実用化につなげていきたい。産学連携によって,企業の研究者のレベルも高めることができる。今後の成功と発展を祈念したい」と述べた。財団法人 産業科学研究協会 理事長の倉内 憲孝氏(元住友電工会長,元顧問)は,住友家と東北大学の本多 光太郎のKS鋼発明のエピソードを交えて挨拶を行い,「大学間だけでなく,産業界も巻き込んで新産業の創造に挑戦し,20世紀の先人の夢を,21世紀の我が国で実現してほしい」と語った。

 この後の講演会では,産研と多元研からそれぞれ2人ずつ研究者が登場し講演を行った。

産研G1グループリーダーである中嶋 英雄氏の講演は,「マイクロおよびナノポーラス材料─創製,物性解明と製品化を目指して─」。ロータス型ポーラス金属・半導体・セラミックスの製造法をはじめ,ロータス型ポーラス金属の強度・機能物性,さらに応用開発について解説した。応用開発では,ゴルフのパターや水冷ヒートシンクなどを例にあげ,今後はナノポーラスにも挑戦する。また,ベンチャー企業を設立して,ポーラス材料の開発と標準化を同時に進めるが,これは世界でも初めての試みだと言う。

 続いて,多元研G2グループリーダーである宮下 徳治氏は,「高分子ナノシートを基盤とする分子計ナノデバイスの構築」というテーマで講演。LB(Langmuir-Blodgett)法によって開発した高分子ナノシート(厚さ1.71nm)の製造法,特性などについて紹介した。応用例としては,高分子ナノシートを接着層とした無電解メッキ,有機FET や光電変換素子,マイクロ流体デバイス,薄膜センサーなど。様々な機能を付加することができることから,産研や産業界の知恵を採り入れた研究開発をしたいとのこと。

 産研G3グループリーダーである山口 明人氏の講演は,「異物排出トランスポーターの構造・機能・生理的役割と創薬の可能性」。生命にとって,もっとも基本的な生体防御システムである異物排出のメカニズムを解説,近年のMRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) やVRE(バンコマイシン耐性球菌) など,ほとんどの多剤耐性菌に異物排出タンパクが関係しているため,その対策が国の重点研究施策で重要な位置を締めていると報告する。山口氏は,異物排出タンパクの研究を通して,病原性だけをなくして病原菌との共存をはかる,まったく新しい抗菌薬,排出トランスポーターオリエンテッドの創薬のターゲットを探究していくと述べる。

 最後の講演が,多元研G4グループリーダーである水崎 純一郎氏。講演テーマは「固体イオニクスからナノイオニクスへ:基盤科学的探求とセンサー・燃料電池への展開」である。固体イオニクスは,固体の中をイオンが動く現象に関わる物理学や化学,さらに材料科学までも含む新しい学問分野である。水崎氏らのグループでは,固体内や界面におけるイオン移動現象の解明から,環境調和型エネルギーシステムと環境制御システムへの新たな提言を行っている。今回は,自動車用電源にも搭載可能なSOFC (固体酸化物型燃料電池) を中心に講演を行った。

 次の展開としては,国立大学法人の附置研究所との連携が考えられており,北海道大学,東京大学,東京工業大学,九州大学などからの参画が得られるようである。また,附置研究所のない大学からの研究者の参加も受け入れる予定であり,来年度以降の発展が大いに期待されるところだ。なお,物質基盤センターが進めているプロジェクトの研究成果報告会は,2006年3月9日,大阪大学中之島センターで開催する予定である。(佐藤 銀平)

【写真1】東北大 多元研 新産業創造物質基盤技術研究センター長の中西 八郎氏
【写真1】東北大 多元研 新産業創造物質基盤技術研究センター長の中西 八郎氏

【写真2】阪大 産研 新産業創造物質基盤技術研究センター長の真嶋 哲朗氏
【写真2】阪大 産研 新産業創造物質基盤技術研究センター長の真嶋 哲朗氏

【写真3】挨拶した来賓。左から,阪大の馬越 佑吉氏,豊田中研の加藤 伸一氏,産業科学研究協会の倉内 憲孝氏
【写真3】挨拶した来賓。左から,阪大の馬越 佑吉氏,豊田中研の加藤 伸一氏,産業科学研究協会の倉内 憲孝氏