ボーダフォン会長の津田氏
ボーダフォン会長の津田氏
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 2005年7月13日に開幕した無線技術の専門イベント「ワイヤレスジャパン2005」の初日最初の講演に登場したのが,ボーダフォン 代表執行役 会長の津田志郎氏だった。NTTドコモからボーダフォンに転進した同氏の展望は「携帯電話のグローバル化の流れは確実」というもの。一般に言われる「各種サービスで先行する日本から世界へ」という方向だけでなく,「世界から日本へ」という流れもあるだろうという内容だ。

 「世界から日本へ」の代表例として同氏が挙げたのが,今後日本の携帯電話業界が導入する「モバイル・ナンバー・ポータビリティ(MNP)」「新規参入」「仮想移動体通信事業者(MVNO)」の3つ。ただし,これから一段と注目が集まるであろういずれの動向についても,津田氏は「業界の健全な発展のために,過熱することなく慎重であるべき」との姿勢を貫いた。

 「ときには、市場は失敗する」というタイトルのスライドと共に紹介したのがMNPの導入例である。最も普及率が高いフィンランドと香港では,基本料や端末の無料化など顧客獲得が過熱した結果,通信事業者が赤字に陥った例を紹介,「過熱した競争は市場を撹乱する」とした。

 次の事例が,総務省による1.7GHz帯の開放で注目が集まる新規参入である。新規参入の例として取り上げたのが,低料金と多額のインセンティブを支払う事業モデルを引っさげて英国市場でサービスを始めた新事業者「3」のキャッシュ・フロー予測である。調査会社の予測を引用する形で,同社が2012年まで黒字化しないことを紹介したほか,国内でもここ数年の間にPHS事業者が次々と撤退した例を挙げ,事業性を慎重に考えるべきだとした。「携帯電話は社会インフラ。参入チャンスは基本的にはオープンであること異論はないが,公益性を持つ企業が撤退したり短期間で売買されたりすると,大きな迷惑を与える可能性がある」と,言葉を選びつつも安易な参入にクギを指した。

 最後の例が,通信インフラを持たずに移動体通信サービスを提供するMVNO。ここでは,MVNOが乱立したというデンマークの例を取り上げた。「小さな市場に13プレーヤが参入して料金が下がった点は事実だが,撤退も相次いだ。トータルでプラスかどうか検討すべき」と,ここでも安易な新規参入に警笛を鳴らす。

 このほか,日本市場が参考にすべき例として,いくつかの海外市場における状況を紹介した。同氏が興味深い例として取り上げたのが,米国における音声利用が伸び続けていること。世界のほかの地域で音声利用がほぼ横ばいであるのに対して「米国では音声利用が飛躍的に伸びている。しかも勾配も右肩上がり」(津田氏)。同氏は,音声通信について改めて知恵を絞る必要があるとした。

 このほか,海外で先行する取り組みをいくつか紹介した。

その1つが携帯電話機による電子マネー関連サービス。日本では,最近になってKDDIもNTTドコモが採用した「おサイフケータイ」の名称を使って電子マネー機能付きの携帯電話機を推進することを明らかにした。今回の講演で津田氏は「韓国では,携帯電話機を使ってキャッシュが引き出せる」と紹介,「日本ではリアル・マネーを伴わないトランザクションが主流だが…」と競合企業の動向をけん制し,リアル・マネーとの連携も考えている韓国の動向にも参考にすべき点があるとした。韓国の例では,ユーザーは銀行でICカードを搭載する「金融チップ」を購入,携帯電話機に差し込んで,ATMのセンサ部に近づけると取引が始まるという。

 これ以外の海外事例として,景観に溶け込む基地局,健康状態を計測するサービスなどを紹介した。

MNPの導入「失敗」事例に学ぶ
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海外では「景観に配慮した基地局がある」と紹介
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