図1◎マイクロソフトのダイアン・ダーカンジェロ氏
図1◎マイクロソフトのダイアン・ダーカンジェロ氏
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図2◎日比谷パーク法律事務所の上山浩氏
図2◎日比谷パーク法律事務所の上山浩氏
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図3◎ザインエレクトロニクスの飯塚哲哉氏
図3◎ザインエレクトロニクスの飯塚哲哉氏
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図4◎キヤノンの丸島儀一氏
図4◎キヤノンの丸島儀一氏
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 日比谷パーク法律事務所は2005年7月5日,開設8周年を記念するシンポジウムを開催し,「職務発明制度のあり方を考える~日米比較の観点から」と題するパネルディスカッションを行った。パネリストは,キヤノン顧問・弁理士の丸島儀一氏,ザインエレクトロニクス代表取締役社長の飯塚哲哉氏,マイクロソフト法務・政策企画統括本部極東地域担当のダイアン・ダーカンジェロ氏,同法律事務所パートナー弁護士・弁理士の上山浩氏の4人。日本の特許法第35条が定める相当の対価(相当対価)の制度が抱える課題として,(1)「社員間の不公平さ」や,(2)発明者の貢献度として世間に広まりつつある,いわゆる「5%ルール」などを挙げ,それぞれ意見を述べた。

 (1)の社員間の公平さについて,まずダイアン氏が米国企業側の視点から,日本とそれ以外の国の研究者や技術者の間で処遇に不公平が生じることを指摘した(図1)。グローバルに事業を展開する企業では,世界各地で研究開発が行われ,職務発明が誕生する。ところが,相当対価を規定する法律は日本にしかなく,海外でその法的効力はない。そのため,日本で働き,職務発明をした社員は報奨を得られるが,それ以外の国で働いて職務発明を成し遂げた社員は報奨を得られないことになる。「一つの企業の中で同じ仕事に取り組みながら,処遇に大きな差が生じると,社員の間に不公平感が生じてしまう。その結果,研究開発部門を日本からなくす選択をする企業が出てくるかもしれない。これは(日本にとって)望ましくないことではないか」(同氏)。

 かつて富士通で技術者として働いた経験を持つ上山氏は,一つの同じ日本の企業の中においても,研究者や技術者同士で不公平が生じることを指摘した(図2)。日本企業では配属される部門によって,発明に携われるか,そうでないかが決まる。偶然,発明に携われる部門に配属された社員は,高い報酬を手にする可能性があるが,それ以外の部門に配属された社員にはその可能性はない。「こうした一部の社員だけにインセンティブを与えて企業全体が栄えるかといえば非常に疑問だ。むしろ社内での公平さが失われて,企業全体の競争力にとってはマイナスに作用し得る」(同氏)。

 (2)の5%ルールとは,いわゆる「青色LED訴訟」の和解勧告や「アスパルテーム訴訟」の一審判決(注:のちに東京高裁で和解が成立)で裁判所が示した発明者の貢献度が「5%」だったことから,一般に広まりつつある「5%が妥当」とする見方のこと。

 これについて飯塚氏は,研究者であり,かつベンチャー企業の経営者でもあるという立場から,売り上げと技術との関係を踏まえて次のように語った(図3)。「企業の売り上げの中で,特許どころか技術が占める割合は2~3割ほどしかない。7割以上は別の要素だ。にも関わらず,一つの特許をとって『5%』と決められると,どうしようと思ってしまう。売り上げを生む事業が一つの特許で成立することはあり得ない。実際のビジネスで使う特許は少なくとも数十件,数百件でも普通だ。一律に5%と決められると,20件の特許があれば100%に達してしまう。売り上げと特許とを単純にリンクさせるのは,事業を運営している人間から見ると納得がいきかねる」(同氏)。

 この5%ルールについて,丸島氏は発明者の貢献度は事業全体を見て判断する必要があると語った(図4)。「全体から見ると成功する発明はごくわずか。しかし,裁判所は失敗した分については認めず,成功した分から発明者の貢献度を割り出す。こうしたやり方では企業経営が成り立たない」(同氏)。

 こうした問題点を踏まえ,丸島氏と飯塚氏は発明者へのインセンティブの設定については「企業の独自性を認めるべき」と意見を述べた。「発明へのインセンティブを社員にどう与えるかは,各企業の重要な戦略の一つであり,強行法規として画一的に決めるのは問題である」(丸島氏)。