図◎ソニー新社長の中鉢氏。顧客志向のものづくりでソニーの復活を狙う。
図◎ソニー新社長の中鉢氏。顧客志向のものづくりでソニーの復活を狙う。
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 「エレクトロニクス事業の復活なくしてソニーの復活なし」。2005年6月22日に正式にソニー代表執行役社長兼エレクトロニクスCEOに就任した中鉢良治氏は,翌23日に開いた記者会見でも,このフレーズを力強く繰り返した(図)。

 同社の業績が低迷する最大の原因は「ものづくりを軽視したことにある」とさまざまな方面から指摘されている。中でも,販売の最前線である家電量販店からは,テレビ受像機やDVDレコーダーを中心としたデジタル家電製品に関して「他社の製品と変わらない」「安さを理由に買っていく顧客も少なくない」といった声まで挙がるようになった。株式市場関係者からも「今のソニーの製品に『ソニープレミアム』とも呼ばれたかつての特長はない」という評価が聞こえてくる。この厳しい指摘を正面から受けるかのように,中鉢氏は「エレクトロニクス事業の復活」をミッションに負ってソニーの新社長に就任した。冒頭のフレーズは,そのミッションを達成する意気込みをストレートに表現したものだろう。

業績不振に関する中鉢氏の分析

 中鉢氏自身は,ソニーが業績不振に陥った理由について,次の二つの要因を挙げる。(1)市場環境や経営環境の変化に対応できなかったこと(2)顧客の目線を反映したものづくりができなかったこと──。

 このうち,市場環境や経営環境の変化については,「総合電機メーカーだったソニーが,さまざまなスペシャリストから攻撃を受け,競争が複雑かつ多様化」(同氏)する中で,ソニーがうまく攻撃を仕掛けられなかったことを指している。かつてソニーの競合は,同じく日本の総合家電(AV機器)メーカーだけだった。ところが,現在は欧米の電機メーカーに加えて,韓国や台湾,中国といったアジアの電機メーカーが競合相手となり,さらにIT業界を代表とする異業種からの“攻撃”も受けるようになっている。韓国Samsung Electronics社の躍進を許し,得意としてきた携帯型音楽プレーヤーの分野で,米Apple Computer社のHDD音楽プレーヤー「iPod」にソニーの「ウォークマン」が防戦一方に陥っていることが,ソニーの“反撃力”の低下を象徴している。

 しかも,こうした競争環境の変化のスピードに,ソニーは十分に対応できていない。デジタル製品では「先行者優位説」がもっぱらだ。市場で先駆けたメーカーは十分な利益が得られるが,価格下落が激しいため,遅れて市場に参入したメーカーの製品は利幅が薄いからだ。しかも,市場参入が遅れるほど,キーデバイスである半導体に関する次の投資が遅れるため,コスト削減が進まない。その結果,スピードの遅いメーカーは「製品の価格下落にコスト削減が追いつかない」(同社)という状況に陥り,さらに苦しい競争環境に身を投じることになる。ソニーの場合,薄型テレビ受像機やDVDレコーダーがまさにこの状況といえるだろう。