複数の同じ発明がある場合,たとえ出願日が遅くとも,発明した日が早ければ特許権が優先的に与えられる−−。これが,世界で唯一,米国のみが採ってきた特許制度「先発明主義」である。この制度の廃止を目的とする特許法改正案が,米国下院に提出された。

 この改正案の大きな柱は2つある。1つは,従来の先発明主義から,特許の出願日が早い発明者に特許権を与える「先願主義」に移行すること。もう1つは,訴訟などの煩雑な手続きなしで,成立済みの特許に対する異議申し立てが可能になったことだ。

 ただし,先発明主義を大企業との特許紛争の有力な対抗策としてきた中小企業や個人発明家などは,この法案に猛反発を示すことが予想される。

目的はリスクの軽減と特許制度の統一

 なぜ今,先願主義への移行を目指す動きが顕在化したのか。その理由は2つある。1つは,個人発明家など思わぬところから「こちらの方が発明日は早い」といった特許訴訟を仕掛けられるリスクをなくすこと。出願日を基準にする先願主義であれば,発明日の特定が難しい先発明主義に比べ,特許の優先権を巡るいさかいは減るはずだ。成立済みの特許に対する異議申し立てを簡略化するのも,同じく特許訴訟のリスクを軽減するのが目的である。

 もう1つは,日米欧で特許制度の統一を図る「特許ハーモ」の動きに歩調を合わせるためだ。その背景には,全世界の特許出願数がうなぎのぼりに上昇し,各国の特許審査能力が追いつかなくなっていることがある。世界における特許出願件数は,1999年に約700万件だったのが2002年には約1500万件と2倍近くに跳ね上がった。日米欧は,まず特許の審査基準を統一することで,1つの特許に対する各国の審査の負担を減らす考えである。米国は先願主義に移行する代わりに,日欧の特許制度のうち「グレース・ピリオド」に関する部分を,米国の現行制度に近いものに移行させたい考えとみられる。

 グレース・ピリオドとは,発明の公表から特許出願までに認められる猶予期間のこと。例えば,発明者が出願前に発明内容を学会などで発表した場合にも,グレース・ピリオドの期間内なら発明の新規性が認められ,特許の出願が可能になる。日本や欧州では,法律で定めた刊行物や学会,国際博覧会で発表した場合にのみ,6カ月のグレース・ピリオドが適用される。これに対して米国のグレース・ピリオドは1年で,適用に関する制限はない。