図  1.7GHz帯に設けた「全国バンド」と「東名阪バンド」の下り(基地局→端末)向け周波数。上りは,1.75GHz〜1.785GHzである。
図 1.7GHz帯に設けた「全国バンド」と「東名阪バンド」の下り(基地局→端末)向け周波数。上りは,1.75GHz〜1.785GHzである。
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 総務省は,第3世代移動体通信システム(3G)向けに新たに割り当てる1.7GHz帯と2GHz帯の周波数帯域幅と,割り当て方式を正式発表した。今回示された割り当て方式では,新規事業者へ割り当て枠を確保する一方で,都市部ではNTTドコモなど既存の携帯電話事業者にも事実上の割り当て枠を設けている。割り当て当初は,イー・アクセス,ソフトバンクBB,そしてNTTドコモが帯域を確保しそうである。ただし,当初の割り当てで確保できる1事業者当たりの周波数帯域幅はわずかで,特に新規事業者は,電波干渉対策や基地局の設置場所などに苦労することになりそうだ。

250万加入に先に届いた事業者が2チャネルめを確保

 1.7GHz帯の割り当て方式は,当初は新規事業者に特定の帯域を割り当てておき,残りは加入者数の実績に応じて既存事業者も含めて早い者勝ちで確保させるという枠組みになっている。

 具体的には,以下の通りとなる。まず,1.7GHz帯の割り当て用周波数帯域は,日本のどこでも使える15MHz(上り/下りの片側分)の「全国バンド」と,東京,名古屋,大阪の大都市部に限って使える20MHz分(同)の「東名阪バンド」の2種類に分かれる(図)。このうち,全国バンドはすべて新規事業者向けとなる。15MHz分を5MHzごと3チャネルに分割し,1チャネルずつ最大2社の新規事業者に割り当てる。残った1チャネルは実際にサービスが始まった後に「最初に割り当てた2社のうち,サービスの加入者数が250万人に早く届いた方に割り当てる」(総務省)という。

 一方,東名阪バンドも5MHz幅ごとのチャネルに分割する。こちらは新規,既存の区別はしない。ただし,これまでの加入者数の実績から判断する。

ドコモは8月にも割り当て基準に到達へ

 総務省は東名阪バンドの割り当てについても「新規事業者に有利な方式になっている」と主張する。その理由は「確保済みの周波数帯域が多い事業者ほど基準が厳しくなるようにした」(同省)という点にある。具体的には「事業者が既に確保している3G向け周波数帯域が15MHz以下の場合は,その1MHzあたり50万人以上の加入者がいること,15MHz~25MHzの場合は,1MHz当たり75万人以上,25MHz以上は1MHz当たり100万人以上」(同省)という基準で,早い者順で周波数を確保できる。

 この基準によれば,全国バンドで5MHz分の割り当てを受けた新規事業者は,3つめの全国バンドの割り当て競争でライバルとなる新規事業者に敗れたとしても,加入者数が250万人に達した時点で,東名阪バンドを1チャネル確保する権利を得る。一方,現在3G用の周波数帯域を20MHz分割り当てを受けているNTTドコモは,東名阪バンドの1チャネルを得るために,75万人/MHz ×20MHz=1500万人以上,15MHz分を持つボーダフォンは,1125万人以上の加入者数を獲得している必要がある。ところが,2005年4月末時点で,NTTドコモの3Gサービスには約1224万人の加入者,ボーダフォンは約106万人の加入者しかおらず,現時点では総務省の基準に2社とも届かない。

 ただし,NTTドコモの3Gサービスへの加入者数は2004年12月以降,月間100万人前後の勢いで増えている。このペースが続けば,2005年8月前後に同基準を満たしそうだ。総務省が周波数の割り当てを受ける事業者を決定するのは,2005年8月ころの見通しである。発表時点でNTTドコモが東名阪バンドのチャネルを確保できる可能性もある。

1チャネルで電波干渉を防げるか

 現時点で1.7GHz帯の割り当てを希望しているイー・アクセスとソフトバンクにとっては新たな参入希望者が名乗りを上げない限り「周波数割り当てをまったく受けられない」という恐れはなくなった。しかし,現実のサービス提供に向けて技術的なハードルは大きい。加入者数が250万人を超えるまでは,周波数チャネル1チャネルだけでサービスを提供しなければならないからである。両社が利用予定の3G方式はいずれも,W-CDMA方式になる見込みである。この方式は,5MHzが1チャネルと決まっている。これでは,基地局ごとに利用する周波数帯を変えるなどの,基地局間の電波干渉を防ぐ一般的方法は利用できない。総務省,イー・アクセス共に「技術的な対応は可能と考えている」としているが,具体的な方法は明らかにしていない。ビーム・フォーミングの採用といった何らかの工夫が必要になりそうだ。