東京工業大学 資源化学研究所 光機能化学部門 教授の彌田 智一氏らのグループは,ナノシリンダー構造体への微粒子の選択ドーピングにより,新規のナノ構造材料を作製。今回の研究成果について,大学院生の正田 聡子氏(写真)が高分子学会 第54回年次大会で発表した。

 親水性のポリエチレンオキサイドPEOと,アゾベンゼンを含む疎水性メタクリレートPMA(Az)からなる両親媒性ブロック共重合体薄膜の高配向性のナノシリンダーがある (図1)。これは彌田氏らのグループが開発したものだが,PEOを島,PMA(Az) を海とした規則的なナノシリンダー構造をしているフィルムPEOPMA(Az)。マイクログラビア製膜法により,完全配向制御をしたもので10cm×数10cmの大面積化に成功したものだ。

 このPE ナノシリンダー部分にナノ粒子をドーピングすることによって,優れた機能材料になることを追究したのが,本研究である(図2)。その選択ドーピング材料が酸化ルテニウム粒子(RuOx)で,高電気伝導性,高温安定性,高耐腐食性などが期待できる。

 RuOxの選択ドーピングは,マイクログラビア製膜法で作製したフィルムを,RuOxの蒸気にさらして行う。RuO4水溶液の体積比(0.5,3.0vol%) ,暴露時間(1,2,3,4,30分間) ,温度などの最適化を行うが,氷浴で冷やしながら,3.0vol%のRuO4水溶液で4分間さらしたときに均一ドットができたということである。

また,熱処理後,このフィルムを0.5vol%のRuO4水溶液に4分間暴露したところ,PEOドメインにドープされた酸化ルテニウム粒子は, 六方格子に規則正しく配列した凸型パターンを形成していることが確認された。RuOx粒子がドープされたフィルムの横断面像を観ると,選択的にPEOシリンダーにドープされており基板に対して垂直に配向していることが観察されたという。

次に,このフィルムに60kV,300μAの電子ビームを照射したところ (照射時間は10~60秒間) ,RuOxをドープしたPEOシリンダーのエッチングの速度は比較的遅く,そのために選択的にPMA(Az) のエッチングが行われることか明らかになった。つまり,電子ビーム照射により,PMA部分が削りとられ,酸化ルテニウムをドープしたフィルム部分が焼結したナノピラー構造を形成すること,さらに異方性の電子伝導を有していることが分かったということだ。

 以上から,酸化ルテニウムをドープしたPEOPMA(Az)ナノ構造は,多様なナノテンプレート,異方性電子伝導,ナノ電極アレイなど,新規のナノ材料への幅広い応用が期待できるだろう。(佐藤 銀平)

【写真】成果報告を行う東京工業大学 大学院生の正田 聡子氏
【写真】成果報告を行う東京工業大学 大学院生の正田 聡子氏

【図1】フォトリソグラフィと両親媒性ブロック共重合体ナノシリンダーのスケール構造比較
【図1】フォトリソグラフィと両親媒性ブロック共重合体ナノシリンダーのスケール構造比較

【図2】ナノシリンダーの応用例
【図2】ナノシリンダーの応用例