東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 有機材料分野 秋吉研究室 博士過程1年の朝山和喜子氏は,2005年5月27日,パシフィコ横浜で開かれた高分子学会 第54回年次大会の場で「ナノゲルシャペロンの構造特性と機能評価」と題してポスター発表を行った。

 たんぱく質の一種であるシャペロンは,生体内部において他のたんぱく質を適材適所で働かせたり,壊れたたんぱく質の検知・修復を行ったりといった他のたんぱく質に対する司令塔的な役割を担っている。このシャペロンを医療に応用することで,たんぱく質の変性によって生じるがん・アルツハイマー病・狂牛病のワクチン治療が可能になるのではないかと期待されており,世界中で精力的な研究が行われている。

 秋吉研究室では,これまでにGFP(緑色蛍光たんぱく質 ),CAB(酢酸酪酸セルロース),CSなど分子量が数万程度の比較的小さな高分子化合物の変性において,CHP(コレステロール置換プルラン)やALP(アルキル置換プルラン)が人工分子シャペロンとして優れた機能を発揮することを明らかにしてきた。今回の朝山氏の実験では,さらに大きな高分子であり,多糖類からガラクトースを遊離する酵素であるβ-D-ガラクトシダーゼ(分子量 116.3kDa)に対して,天然分子シャペロンであるGroELと人工分子シャペロンのCHPナノゲル,ALPナノゲルの機能比較を行った。実験方法としては,尿素変性させたβ-D-ガラクトシダーゼに対する48時間後のリフォールディング率(変性したたんぱく質を元の構造に戻す割合)をUV(紫外線)吸光法によって求めた。

 結果として,GroELが50%のリフォールディング率を示したのに対し,CHPナノゲルはCD(シクロデキストリン)添加時に2%,CD添加時に15%と低いリフォールディング率となった。また,ALPナノゲルにおいては,CD非添加でも32%,CDを添加すると50%とGroELに匹敵する高いリフォールディング率を示した。

 今回の発表で朝山氏は,「β-D-ガラクトシダーゼの尿素変性においてはALPナノゲルが高いシャペロン活性を示し,またそのシャペロン活性にはナノゲルの疎水基構造が大きく関与している」と述べた。(柏倉 俊介)

【表】各条件下における尿素変性β-D-ガラクトシダーゼのリフォールディング率
【表】各条件下における尿素変性β-D-ガラクトシダーゼのリフォールディング率

【写真1】天然分子シャペロンと人工分子シャペロンとのモデル比較
【写真1】天然分子シャペロンと人工分子シャペロンとのモデル比較

【写真2】CHPナノゲルとALPナノゲルの作用機構の違い
【写真2】CHPナノゲルとALPナノゲルの作用機構の違い