図1 日本IBMとIT Frontierの映像配信デモ。映像のエンコーディングには日本ビクター製のビデオ・カメラを利用する。
図1 日本IBMとIT Frontierの映像配信デモ。映像のエンコーディングには日本ビクター製のビデオ・カメラを利用する。
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図2 スカパーとウタゴエが実演したパソコンへの映像配信。スカパーのチャンネルがパソコンで見られる。
図2 スカパーとウタゴエが実演したパソコンへの映像配信。スカパーのチャンネルがパソコンで見られる。
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 日本IBMとシステム・インテグレータのIT Frontier,スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(スカパー)とウタゴエはそれぞれ,「グリッド技術」を利用してストリーミング映像をサーバーからパソコンに配信するシステムを開発した。現在開催中のグリッド・コンピューティング関連技術の展示会「Grid World 2005」(2005年5月11日~12日,東京国際フォーラム)でデモを実演している(図1図2)。

 同技術は,ストリーミング映像の視聴者となるエンド・ユーザーのパソコンを,映像の受信と同時に中継サーバとして利用する。中継サーバの周囲のパソコンは,サービス事業者のサーバーではなく,この中継サーバーに接続して映像を受信する。映像を受信するパソコンが増えても,中継サーバを動的に増やして多段に接続することで対処できる。サービス事業者側が用意した大型サーバや数が限られた中継サーバに視聴者が接続する形態と比較して,事業者側のコストや映像品質が,視聴者数の増減に対して左右されにくいというメリットがある。

 こうした技術は,2002年頃には既に登場しており,当時は「PtoP型ストリーミング配信技術」などという名前だった(Tech-On!の関連記事)。当時は,実験などが盛んに行われたが,その後,本格的な実用化には至っていない。メリットの一方,ファイアウォール越えやコンテンツの権利保護,中継サーバーとなるパソコンの性能やネットワーク環境に映像品質が左右されるなどの問題がついてまわるためである。今回は,グリッド技術に注目が集まる中で,グリッド技術の一種として「新装開店」した格好である。

MPEG-4のデータを受信端末の台数分に分割

 従来のPtoP型ストリーミング映像配信と異なる点が多いのは,日本IBMとIT Frontierが実演した「Peer to Group(PtoG)」技術である。映像を中継する先を各ユーザー単位でなく,一定のユーザー・グループ単位で把握する。MPEG-4で符号化したデータを,グループ内で映像を受信する端末の台数分だけ分割して送信し,端末側でデータをやり取りして元の映像データを再構成するといった機能も備える。これは「中継サーバとなっているパソコンに障害が起こった場合にその影響を低減するため」(IT Frontier)である。これらの技術は「日本IBMの大和研究所が独自に開発した」(IT Frontier)とオリジナル性が高いことを強調する。

 ただし,ファイアウォール越えなどの問題は解決していない。2005年内にも同システムを2社~3社に試験導入するというIT Frontierは,「パソコンごとにファイアウォール越えなどの必要がない企業に提供対象を絞り,遠隔地学習や社内セミナーなどに使ってもらう」(同社)という。

 一方,スカパーとウタゴエは,一般消費者への映像配信サービスへの利用を想定している。「ファイアウォール越え技術は一応開発済み。これからフィールド実験で動作検証する」(スカパー)。会場内で行った実演では約10チャネルの映像をH.263で符号化し,各チャネル100kビット/秒の帯域で配信していたが,ブロック・ノイズなどの映像劣化がやや目立った。