台湾TECO Group Vice Sector ExecutiveのEugene Huang氏。記者会見では終始,語調を抑えて主張を展開し理解を求めた。
台湾TECO Group Vice Sector ExecutiveのEugene Huang氏。記者会見では終始,語調を抑えて主張を展開し理解を求めた。
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809特許の概要(『日経エレクトロニクス』2004年7月19日号から)
809特許の概要(『日経エレクトロニクス』2004年7月19日号から)
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 台湾TECO Electric & Machinery Co., Ltd.とその日本法人である三協は,シャープを訴えた最大の理由としてブランドの信用が損なわれ回復できていないことを挙げた(関連記事)。両社は,シャープが画素欠陥補正に関する特許(第2106809号,以下809特許)の侵害に基づく仮処分の正当性をめぐる争いで敗訴に近い状態だったと主張している。

 2005年2月16日の最終尋問(第5回)で裁判官から「809特許は国内電機メーカーから同様な内容が先行出願されているため無効」との心証開示があったと説明する。「心証開示は国内の裁判所ごく一般的に用いられている簡素化の手段。その内容は判決とほとんど変わらない」(三協の弁護を務める高橋隆二氏)。

 シャープは仮処分の申し立てを取り下げた。しかし同時に,同じ特許をめぐって本訴に踏み切った。この事実が国内では「シャープが本訴したことに焦点を当てて報じられた。809特許で実質的に当社が勝ったという事実は伝わらなかったので,流通業者や消費者に対する当社の信用が再び落ちてしまった」(三協)という。

一度取り下げているのに…


 シャープは2005年3月2日と2005年3月31日にそれぞれ第2823993号(以下,993特許),第3437899号(以下,899特許)を侵害しているとして三協を相手に提訴した。いずれの特許も液晶パネルにバックライトを組み合わせる工法に関する特許である。

 こうした動きに対してTECO社は「今回の争点は本当に知的財産権なのか。変則的な(当社以外を含む)営業に対する妨害が狙いではないかとさえ思う。シャープの意図が分からない」(台湾TECO Group Vice Sector ExecutiveのEugene Huang氏)とした。三協側の弁護士である高橋氏は「993特許は審議が1回だけ,899特許はまだ審議が始まっていないが,TECO社製品が使った液晶パネルが両特許を侵害していたとは考えていない」という。

 その理由の1つとして,3月2日に対象にした993特許について「シャープは侵害されたと最初に主張しながら,その4日後の2004年6月11日に取り下げた」ことを三協は挙げる。既に心証開示で有効性に疑問がある809特許よりも戦いにくいからシャープは取り下げたのであれば,それを持ち出しきた真意が分からないというわけだ。

 もう1つの理由は,本訴となった3件の特許係争がいずれも,2004年夏以降流通していない20インチ型液晶テレビの販売差し止めを求めていること。「当社の国内シェアはわずかだし,そもそも当社製品はシャープと競合するような地位にない(関連記事)。(20インチ型液晶パネルの製造元である)台湾AU Optronics Corp.との訴訟で勝てないからシャープはここまでするのではないか」(三協)。TECO社によると,AU Optronics社とシャープは米国で訴訟関係にある。「AU Optronics社は和解によって解決を図る意向だが,その交渉は中断している」(TECO社のHuang氏)

事実を知ってほしい


 TECO社が今回の提訴に至るまでには苦悩があったという。日本企業を訴えることは必ずしもブランド・イメージを高めないという考え方があるからだ。「法廷以外での話し合いが重要だと思っているが,シャープに話し合う意欲がない。法廷で当社の正当性を認めてもらうしかブランド・イメージを回復するしか手がない」(同社のHuang氏)。

 TECO社は今回,日本で被ったとする直接的損害に限って訴え出た。「シャープに損害を与えて仕返したいわけではない。自由かつ公平な企業間競争によって消費者利益を図りたい」(同社のHuang氏)。同社にとって一般に有利な台湾でシャープを相手に訴訟を起こすつもりはないとしている。

シャープは徹底抗戦の構え


 三協の訴訟提起に対して,シャープは徹底抗戦の構えである。三協が「シャープの特許権を侵害していない」としていることに対して,シャープは「侵害していると確信している」(同社)と主張する。

 「まだ特許庁から審決書を受け取っていないが,無効の審決が出た場合でも権利を主張するために,知財高裁に審決取り消し訴訟を速やかに提起する。また特許庁に対しては訂正審判請求をする予定」(シャープ)とのコメントを発表した。この中で,今回の三協の損害賠償請求については「反訴を含め対応を検討する」(同)とした。