図1 アンテナの特性測定に利用した,積層したSi基板の例
図1 アンテナの特性測定に利用した,積層したSi基板の例
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 広島大学ナノデバイス・システム研究センターの吉川研究室は,積層したLSI同士を無線のUWB(ultra wideband)で接続するための受信用ICを試作した。このICやアンテナの特性について,「第52回応用物理学会関係連合講演会」(2005年3月29日~4月1日,埼玉大学)で発表した。3次元的に積層したLSI間の通信を無線で行い,接続の組み合わせを様々に切り替えられるようにするのが狙いである。すでに送信用ICの試作版やアンテナの構造については,2005年2月に開催された半導体技術の国際会議「ISSCC 2005」で発表済み(図1)である。

 今回開発した受信用ICは,UWBの受信から復調,A−D変換までを実行する。インピーダンス整合回路,差動増幅回路,乗算器(Gilbert cell mixer),それに積分回路を,約1.4mm×約0.7mmのチップ上に集積した。製造には0.18μmルールのCMOSを使った。動作電圧は+1.8V,消費電力は32mWである。UWBにはインパルス方式を採用し,OOK(on off keying)で変調する。「チップ寸法は回路の最適化などでもっと小さくなる見込み」(広島大学 ナノデバイス・システム研究センター COE研究員の佐々木信雄氏)。

 動作を確認した伝送速度は250Mビット/秒と400Mビット/秒。「目標とする伝送速度は1Gビット/秒以上」(同氏)という。0~8GHz超と広帯域の周波数を利用し,中心周波数は3.6GHzである。通信距離はアンテナに依存するが,数mm~1cmを想定する。

アンテナは0~40GHz超をカバー

 アンテナは,長さが4mm,幅や厚みは約1μmのダイポール型である。スパッタリングなどでSi基板上に形成する。多段に積層するLSIごとにこのアンテナとUWBの送受信回路を搭載して,LSI間で高速通信を行うことを想定する。

 広島大学 吉川研究室は,LSIの代わりとなるSi基板を積層したものを利用し,アンテナ間の通信の送受信特性を測定した。アンテナの対応周波数領域は,0~40GHz超と広い。ただし「現状のアンテナ利得は−30dB~−40dBと低い。実用化するには−20dB程度は必要」(同研究室)とする。

 利得が低い理由の1つに,積層するLSIのSi基板に含まれている不純物が電波の透過性を下げていることが考えられるという。今後は,アンテナの形状を工夫すると同時に,不純物が少なく高抵抗のSi基板を利用して特性の向上を図る計画である。

LSIとアンテナ間の電波干渉が課題

 
 チップ間通信に無線を使う場合につきまとうのが,EMI(電磁妨害)問題である。今回は,UWBの無線周波数とLSIの動作周波数が近いため,大きな課題になる恐れがある。今回の発表では,LSIからアンテナへの電波干渉の程度についても調査結果を公表した。その結果「一定の電波干渉はあるが,受信信号の差動を取ることで同相成分は除去できる」(広島大学 吉川研究室)。ただし,アンテナからLSIへの干渉程度の研究はこれからだという。