陳育平氏。「中国鉄道通信公司や中国衛星通信公司も,実力さえあれば3Gを展開できるはず。ただし,通信事業者において海外からの投資依存度が極端に高い場合,中国政府が慎重になる可能性はあるだろう」
陳育平氏。「中国鉄道通信公司や中国衛星通信公司も,実力さえあれば3Gを展開できるはず。ただし,通信事業者において海外からの投資依存度が極端に高い場合,中国政府が慎重になる可能性はあるだろう」
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情報産業省 電信研究院による携帯電話加入者数の予測。3G開始後3年〜4年でGSMを上回るとみている
情報産業省 電信研究院による携帯電話加入者数の予測。3G開始後3年〜4年でGSMを上回るとみている
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 「TD-SCDMA方式のチップセット開発に必要な技術は既に確立しており,中国国内・海外メーカーを含めて開発も順調に進んでいる。ただ,これまでに開発したTD-SCDMAのチップセットの実力がどの程度か,どういった部分に不足があってさらなる開発が必要なのかはきちんと吟味する必要がある---」。中国の情報通信行政を管轄する情報産業省(信息産業部)の電信研究院 交流中心 主任の陳育平(Chen Yuping)氏は東京都内で記者会見し(Tech-On! 関連記事1),今後数カ月かけてTD-SCDMAのチップセット(同 関連記事2同 関連記事3)の検証に取り組み,その後2005年末をメドに第3世代携帯電話の商用サービスを開始するとの見通しを示した。

 電信研究院は,携帯電話機の検査業務を担う「泰爾実験室」をはじめ,複数の研究機関を傘下に持つ。これらの研究機関でW-CDMA,CDMA2000,TD-SCDMAに関する屋内・屋外の実証試験を行ってきた。W-CDMAとCDMA2000については,「既に実証試験は終了し,細かい仕様に関する調整をしている段階」(陳氏)という。TD-SCDMAについては,チップセットの検証といった課題があるため,2005年3月上旬から再度実証試験を開始。6月末までには試験を終わらせ,その後1カ月半程度で報告書を完成させる。

商用化への最終決定は「9月」

 情報産業省がまとめる報告書は,3Gの商用サービスに関する最終的な提言として,中国政府の長期的な政策立案を担当する国家発展・改革委員会や,内閣に相当する国務院に対し提出することになる。2005年9月に予定している「3G in China Global Summit」の前後に,具体的な計画が明らかになると陳氏は予測する。「中国でもよく誤解を受けるところだが,情報産業省は通信産業の運用に関して責任を持つだけで,今回の3Gのような重要な政策について自身で決める権限はない。こうした政策決定の権限は国家発展・改革委員会や国務院の専権事項である」(陳氏)と説明する。

 中国の3Gをめぐっては,開始の時期などをめぐってここ2年ほど様々な噂が中国の通信業界内部でも飛び交っていたが,今日まで商用サービスの開始には至っていない(Tech-On! 関連記事4同 関連記事5同 関連記事6同 関連記事7)。最近では「2005年6月までに商用サービスが始まる」との予測があったが,陳氏は「実証試験が完全に終わっていない段階で商用サービスを始めることはあり得ない」と否定する。

 「もちろん国家発展・改革委員会や国務院も,3Gを手掛けたくない訳ではない。ただ,中国政府はTD-SCDMAの技術開発に向けて20億元(約260億円)以上を投じている。この投資を無にするような決定を自ら下すことはないだろう。W-CDMA,CDMA2000,TD-SCDMAの3方式について,足並みがそろった段階で商用サービス開始に踏み切るのが順当ではないか」(陳氏)と指摘する。

1カ月に500万の新規加入,需要はまだ大きい

 中国の3Gは,日本や韓国,香港,欧州などに比べて一歩遅れたタイミングでの商用サービス開始となる。それでも陳氏は,中国3Gの前途は期待できるとする。電信研究院の予測によると,2005年末から年間2000万台~3000万台のペースで加入者が増加し,2009年には現行のGSMを上回る規模に成長するという。

 中国の携帯電話加入者数は現時点で3億5000万契約。それでも普及率は20%前後という水準であり,現在も1カ月に500万契約の新規加入があるという。「需要はまだ大きい。日本の携帯電話機メーカーは研究開発の実力という面では優れているものの,中国市場で存在感を出すところまでは至っていない。さらなる中国市場への進出を呼びかけていきたい」(陳氏)と希望を語った。

【訂正】第3段落で「『3G in China Global Summit』の場で,国務院が具体的な計画を明らかにすると陳氏は予測する。」とありましたが,正しくは「『3G in China Global Summit』の前後に,具体的な計画が明らかになると陳氏は予測する。」です。また写真上のエトキ「海外からの投資依存度が極端に高いと」は,「通信事業者において海外からの投資依存度が極端に高い場合」の誤りです。お詫びして訂正いたします。