任天堂 取締役社長の岩田聡氏(写真:林 幸一郎 )
任天堂 取締役社長の岩田聡氏(写真:林 幸一郎 )
[画像のクリックで拡大表示]

 任天堂取締役社長の岩田聡氏は「Game Developers Conference(GDC) 2005」で,自らのゲーム開発体験をひも解きながら,次世代ゲーム機の目指すべき方向を示唆した(Tech-On!関連記事)。岩田氏によれば,次世代ゲーム機は機能の高さももちろん重要だが,真に重要なのは「ゲームを開発しやすいことと,今まで誰も思いつかなかった新しいゲーム体験を提供できること」という。講演後の岩田氏に,次世代ゲーム機の構想について話を聞いた。

(聞き手=浅川 直輝)



——GDC2005の基調講演には,ゲーム開発者から大きな拍手が送られていた。

岩田氏 これほど多くのゲーム開発者の賛同を得られるとは思わなかった。ゲーム機の高機能化に伴って,ゲーム・ソフトの開発費がうなぎ登りになっていることへの危機感があるのだろう。次世代ゲーム機では,現行機種と同じAPIを用意するなど,ゲーム開発費の低減に全力を尽くす。

 次世代ゲーム機で目指すのは,今のゲーム・ユーザー層をさらに広げることだ。現行のゲーム機は,昔に比べてコントローラのボタンの数が数倍に増えるなど,あらゆる面で複雑になった。だがこれでは,ゲームに熟練した「コア・ゲーマー」にとっては満足できても,ゲームの未経験者には障壁が高すぎる。ゲーム・ソフトを開発する側も,安定した量のゲーム・ソフトを買ってくれるコア・ゲーマーばかりを対象にしたゲームを作ってきたきらいがある。

 次世代ゲーム機には,ゲームをしている子供の隣で母親が「あ,私もやってみたいな」と思えるような,親しみやすいユーザー・インタフェースを用意するつもりだ。ただ,ユーザー・インタフェース部は他社にマネされやすい部分でもあるので,ここで詳細は明かせない。

——次世代ゲーム機を,無線LANに標準対応させた理由は何か。

岩田氏 無線LANを使えば,無理なくリビング・ルームまでブロードバンドを持ちこめるからだ。ここ数年で,ブロードバンド回線が一般家庭にもずいぶん普及した。だが,リビング・ルームにある機器にまでブロードバンドは浸透していない。リビング・ルームにLANケーブルを這わせる手間がユーザーにとって大きな障壁になっているからだ。無線LANなら,この手間を回避できる。

——無線LANにも「初期設定が面倒」という欠点があるが。

岩田氏 確かに,SSIDやWEPキーの入力といった作業はユーザーにとってしきいが高すぎる。私から言わせれば,そういった煩雑な作業は,大衆商品にあってはならないもの。何らかの対策を考えたいところだ。

 携帯型ゲーム機「ニンテンドー DS」に無線LAN機能を載せる際も,ユーザーに無線LANの存在を意識させないことに気を配った。社内では「“ネット”や“オンライン”といった言葉は使わない方がいい」といった議論も出たほど。次世代機でもニンテンドー DSの考えを踏襲する。ユーザーが何の意識もせずにネットにつながる,というのが理想だ。

——次世代ゲーム機では,HDTV映像出力は1つの売り物となるのか。

岩田氏 次世代ゲーム機のハード構成については何も言えない。ただ私の意見としては,HDTV画質が次世代ゲーム機の付加価値となりうるかは疑問だ。というのは,HDTV受像機が今後3年~5年くらいでリビング・ルームに広く普及するとは思えないからだ。子供部屋にまでHDTV受像機が置かれるのはそのはるか先になるだろう。そんな状況で「次世代ゲーム機のウリはHDTV映像だ」とうたっても意味がないように思える。