図1 ドイツInfineon Technologies AGが開発した無線タグ。アンテナ兼インダクタとなるコイルの巻き数が一般の無線タグより少ない。
図1 ドイツInfineon Technologies AGが開発した無線タグ。アンテナ兼インダクタとなるコイルの巻き数が一般の無線タグより少ない。
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図2 日本信号が開発したリーダー/ライター。通信距離は数cm。無線タグを張ったクリアファイルの情報を読み取るデモを実施した。
図2 日本信号が開発したリーダー/ライター。通信距離は数cm。無線タグを張ったクリアファイルの情報を読み取るデモを実施した。
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 ドイツInfineon Technologies AGと日本信号は,最大1000枚の無線タグ(RFIDタグ)をぴったり重ねたままでも情報を読み取れる無線タグ・システムを共同開発した。東京ビッグサイトで開催中の展示会「IC CARD WORLD 2005」で参考出展した。「13.56MHzの周波数帯を利用する。データ伝送速度は,書き込み時が最大424kビット/秒,読み取り時が1チャネル当たり同106kビット/秒で全8チャネルと極めて高速である。同じ13.56MHzを利用する無線タグ・システムの規格「ISO15693」の26kビット/秒に比べて数十倍も速い。ただし通信距離は最大10cmと,最大70cmのISO15693に対して短い。

 今回の無線タグを構成するのは,Infineon社が開発した,無線タグ(タグ用ICを含む)と,日本信号が開発したリーダー/ライターである(図1図2)。2005年4月にサンプル出荷し,2005年7月に量産出荷する計画だ。「量産時の無線タグの生産は凸版印刷が担当する」(Infineon社)。一般企業のオフィスでの書類の整理などに使えるほか,将来的には郵便物の仕分け用途などへの導入を目指すという。

通信距離よりもタグ間干渉の少なさを優先

 高速化や重ねた無線タグの読み書きを可能にしたのは,オーストラリアのMagellan Technology Pty Ltd.が開発した独自の通信技術を採用したため(Tech-On!の関連記事)。同技術は「PJM(phase jitter modulation)」と呼ぶ独自の位相変調方式と周波数ホッピング,FTDMA(周波数/時間分割多元接続)などから成る。

 Infineon社によれば,これらの中でも大幅な高速化のカギになったのはPJMであるという。PJMは,位相を180度シフトさせる2相PSK(phase shift keying)とは違い,±2度だけずらして同時に伝送する。これにより,伝送途中で混入した雑音が互いにキャンセルするなどの効果がある,とする。

 一方,重なった無線タグの正確な読み書きは「パッシブ型無線タグで一般的な共振回路をほとんど使わないことで実現した」(インフィニオン テクノロジーズ ジャパン セキュア モバイル ソリューション事業部 マーケティング 課長の桑原宏之氏)。一般に無線タグでは,共振回路を利用して弱い電波への受信感度と一定の処理時間を確保する。この方法では「無線タグ同士が互いに相互誘導を起こして干渉するため,多数の無線タグが重なると読み取りができなくなる」(同氏)。

 共振回路を使わなければ,こうした相互誘導も起こりにくくなる。その代わり,受信感度が低くなって,長い通信距離は確保できない。この点についてInfineon社は「無線タグを張った薄い書類や封筒を数十枚まとめてリーダー/ライターの上に置いて書類を分類するような使い方では,遠くから無線タグを読み書きする必要がない」(同氏)と説明する。