「第4回 JIPA 知財シンポジウム」の様子
「第4回 JIPA 知財シンポジウム」の様子
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会場には,対価の算定に興味がある知財担当者や技術者が詰め掛けた
会場には,対価の算定に興味がある知財担当者や技術者が詰め掛けた
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 いわゆる「相当の対価」支払いの根拠である特許法第35条の改正法が,2005年4月より施行される。今後,会社は従業員との「合理的な手続き」を経て,相当の対価の支払い基準を決定することができる。改正特許法の施行を控え,多くの企業で,支払い基準を定める協議が大詰めを迎えている。

 日本知的財産協会(JIPA)などが主催した「第4回 JIPA 知財シンポジウム」では,オムロンと積水化学工業の知財責任者が,支払い基準を決める手続きについて,進捗状況や問題点などを明かした。

手続きの合理性を担保する3つの条件

 今回のシンポジウムでは,支払い基準を決める手続きが「合理的」と見なされるための3つの重要なポイントに議論が集中した。1つは,経営者と技術者との間で行われる協議の状況。もう1つは,策定された支払い基準の開示状況。最後に,対価を算定する際に行われる意見聴衆の状況である。これらのポイントを踏み外すと,対価算定の手続きが「不合理」とみなされ,技術者の対価請求権が復活する。つまり,中村裁判のように発明の対価を求められるリスクが生じるわけだ。

 以下,シンポジウムの対談や質疑応答の要点を,Q&A方式で再構成した。司会や会場から質問に答えたのは,オムロン 経営企画室 知的財産部 企画グループマネージャーの北尾善一氏と,積水化学工業 知的財産部 知財法務グループ 理事・部長の九十九高秋氏である。


——技術者との協議では,何が争点となったか。

北尾氏 いくつかの判決で算定額の根拠となった「特許で得た利益の5%」という数字を気にする技術者が多かった。我々が提示した算定式では5%より低かったため,協議会では「何故判例にある5%より低いのか」という質問が矢継ぎ早に出た。これに対して我々は「電機・電子系の製品には多数の小さな特許がぶら下がっていることが多いため,算定額は5%以下が妥当と判断した」と説明した。

九十九氏 オムロンと同じく,判例の算定式より低水準なのは何故か,という質問が相次いだ。これに対しては「他社さんの水準を参考にした」という説明で納得してもらった。支払い金額の合理性を決める上で,重要なのは結局のところ「業界の相場」だろうと見ている。

——協議の後,どうやって「技術者との同意が取れた」と判断するのか。

北尾氏 何をもって「技術者と合意がとれた」と判断するのは難しいが,我々は「合意はとれた」と確信している。協議に出席したのは,研究開発者の40~60%ほど。現場の第一線で研究開発に取り組む技術者はほぼ全員が出席したようだ。技術者に協議への参加の機会を与え,質問も十分に受け付けた。協議の場で算定基準に反対したのは,数名に留まった。文章で合意を確認するといった手続きはとっていない。

——支払い基準はどこまで開示しているか。

北尾氏 オムロンでは,情報を全て開示している。算定式も,金額も,特許の評価もイントラネット上に載せる。このため,算定に使用する他社からのライセンス収入も載せている。ただし,相手会社からライセンス収入を非公開とする契約を結んでいる場合は,この限りではない。

九十九氏 支払い基準などはイントラネットでオープンにしている。隠しているものは何もない。

——クロスライセンスした特許の対価は,どのように計算するのか。

北尾氏 非常に難しい問題だ。現行の基準では,クロスライセンス契約を結ぶ上で重要な位置を占めた特許が特定できることを条件として,「この特許が無ければ他社に支払うことになっていたライセンス料のうち,一定割合を対価とする」としている。

九十九氏 クロスライセンスの対価については,今回算定に入れていない。会社として何らかの形で対価を支払いたい。だが,判例が蓄積していないこともあり,適切な評価方法を見出せていない状態だ。