図1 NTTが開発した「RedTacton」用PCカード端末とネットワーク側の通信モジュール
図1 NTTが開発した「RedTacton」用PCカード端末とネットワーク側の通信モジュール
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図2 端末を美術館やイベントのガイド用端末に組み込んだ例 床に埋め込んだ通信モジュールが,靴や人体を通して,端末に設定した本人の属性を読み取り,それぞれ異なる説明を表示する。
図2 端末を美術館やイベントのガイド用端末に組み込んだ例 床に埋め込んだ通信モジュールが,靴や人体を通して,端末に設定した本人の属性を読み取り,それぞれ異なる説明を表示する。
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図3 パソコンをガラスの机に置いただけでLAN接続が可能になる。ガラスに直接置いても(上),紙を間に挟んでも(中),接続は切れない。パソコンの底面に貼り付けたPCカード端末の電極と,ネットワーク側の通信モジュールの電極がガラス越しに通信することで実現している(下)。
図3 パソコンをガラスの机に置いただけでLAN接続が可能になる。ガラスに直接置いても(上),紙を間に挟んでも(中),接続は切れない。パソコンの底面に貼り付けたPCカード端末の電極と,ネットワーク側の通信モジュールの電極がガラス越しに通信することで実現している(下)。
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 NTTは,人体の表面電界を利用して,人がモノに触れたり,歩いたりといった動作の中で最大10Mビット/秒の高速通信を実現する技術「レッドタクトン(RedTacton)」を開発したと発表した。ポケットに無造作に入れただけの端末が,特別なコネクタなしに人の手などが接触した先の端末と通信できる。NTTはこの技術を2004年10月に開催した展示会「CEATEC JAPAN 2004」などで「ふれあい通信」として発表済み。今回は,PCカード型の端末や各種の用途に使う機器を試作して通信を行う様子を披露した(図1)。「Human Area Network(HAN)」という新しいコンセプトを提唱すると同時に,同技術が実用化段階にあることをアピールした。

 人体を使った通信技術は米IBM Corp.や松下電工,ソニーなども開発中だが,データ伝送速度は数kビット/秒にとどまっていた。今回は,10Mビット/秒と高速で,人体に限らず,絶縁体を挟む場合でも通信可能である。このため,応用が一気に広がる可能性がある。例えば,この通信端末を服のポケットに入れたまま,「鉄道の改札に手で触れるだけで料金を精算」「自動販売機のボタンを押すだけで商品を購入」「ドアの前に立つだけで本人を識別」「握手するだけで名刺のデータを交換」(同社)といったことが可能になるという(図2)。人体とは無関係に「机の上にパソコンを置くだけでLANに接続する」(同社)などの応用も可能である(図3)。NTTは「これから事業化を進めるパートナーを募集し,早ければ2006年中に製品化する計画」である。

光学式センサで従来技術の1000倍超の高速化を実現

 NTTによれば,人体通信技術は,信号を電流で測るタイプと電圧で測るタイプの2種類に分かれるという。「人体に流れる電流を計測するタイプは,体脂肪計のように肌が電極などに直接接触する必要がある。このため端末を服のポケットに入れただけでは利用できない。一方,電圧を計測するタイプは絶縁体をはさんでも信号が伝わるが,伝送媒体が接地されていないために高周波信号を正確に拾えないという課題があった」(NTTマイクロシステムインテグレーション研究所 スマートデバイス研究部 特別研究員の品川満氏)。接地されないと電圧測定の精度が下がるためである。高周波信号を正確に検出できなければ,通信速度を上げられない。

 NTTは電圧タイプを採用した上で,高周波成分の検出の課題を解決し,それまでの通信速度の限界を1000倍以上も引き上げた。ポイントになったのは,電圧の信号を光に変換する光学式電界センサの開発である。同センサは,レーザ発光素子と電気光学(electro-optic:EO)結晶,および偏光面の変化を検出する装置からなる。EO結晶は,結晶内部の電界の変動に応じて屈折率などの光学的性質が変化する。すると結晶中を通るレーザ光の偏光面が変化する。この偏光面の変化を検出する。これで電界変化の高周波成分を正確に検出できるようになった。「センサは10mV程度の電圧を検出できる」(品川氏)と,感度も高い。

 今回,NTTはこれらの部品をPCカードの筐体に収めた端末を開発した。「まだ個別部品を使っている段階。集積化を進めればもっと小さくなる」(NTT)。消費電力は「1回の通信のやりとりで数百mW。小さな電池でも1年間使える」(同社)という。