開発したチップ。上部はテスト用回路である
開発したチップ。上部はテスト用回路である
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 ソニーは,超広帯域を利用する無線技術「UWB(Ultra Wideband)」での利用に向けたRFトランシーバICを試作,「ISSCC 2005」で発表した(講演番号 11.8)。伝送方式には,直接拡散方式のスペクトラム拡散技術を使い,最大データ伝送速度は466Mビット/秒を実現する。同社はこのRFトランシーバICと組み合わせて使うためのMAC/ベースバンド処理LSIを開発済み。ただし製品化時期などは未定である。

 UWBの伝送方式としては,業界団体MBOAが推進するマルチバンドOFDM方式や,米Freescale Semiconductor社などが推進するDS-UWB方式などがある。ソニーが今回の試作品でOFDMを利用しなかったのは,回路構成の簡略化を期待したためという。「開発当初はパルスを使うことも考えていた。ただし,UWBでは5GHz帯無線LANなどのほかの無線通信との干渉を低減するために,帯域内にノッチ・フィルタなどを設ける必要がある。パルスを使ってこうしたフィルタを組み入れると,リンギングなどが発生しやすい。だとすれば,直接拡散のスペクトラム拡散技術を使った方が,よりシンプルな回路にできると考えた。またOFDMに関しては,かなり回路構成が複雑になると判断し,今回の試作では採用しなかった」(開発を担当した技術者)。

 同社は,UWBの伝送方式の標準化が始まった初期のころからチップの設計を開始していた。このため今回の試作品では,ソニーが最初に標準方式として提案したスペクトラム拡散技術を実装したものになったという。ソニーはMBOAに加盟しており,IEEE802.15.3aの標準化では,マルチバンドOFDM方式を推進する立場にある。このため「今回の発表は,あくまでも研究所の1つの成果発表との位置づけ」(開発を担当した技術者)とする。ただし,今回の試作で得た広帯域のLNAや低域通過フィルタの設計技術は,マルチバンドOFDM方式などほかの手法にも応用できることから,開発技術を他方式でも利用していくとみられる。

 発表したRFトランシーバICは,3.1GHz~5GHzの帯域を利用し,中心周波数は4GHzに設定している。変調方式はπ/2シフトBPSK。180nmのCMOS技術を使って製造する。チップ寸法は9.3mm2。消費電力は送信時が105mWで受信時は280mWである。PLLは発振周波数が8GHzのVCOを使い,10MHzオフセット時の位相雑音は−125dBc/Hzである。PLLのロック時間は10ms未満。LNAは,NFが3.5GHz~4.5GHzにおいて3.9dB~4.2dBで,IIP3が−4.5dBm。受信回路には,分解能が2ビットで最大標本化速度が1Gサンプル/秒のA-D変換器を使っている。