図1 STMicroelectronics社が開発したDVB-S2対応の復調・復号用LSI.。誤り訂正にはLDPC符号を採用。90nm CMOSで製造した。2005年3月までに量産出荷する予定である。
図1 STMicroelectronics社が開発したDVB-S2対応の復調・復号用LSI.。誤り訂正にはLDPC符号を採用。90nm CMOSで製造した。2005年3月までに量産出荷する予定である。
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 半導体技術の国際会議「ISSCC 2005」では2005年2月9日,LDPC(低密度パリティ検査)符号をLSIに実装した結果について2つのグループが講演した。LDPC符号は順方向誤り訂正符号の1つで,誤り訂正能力が高く,処理回路を並列化しやすい,幅広い冗長度で利用できる,などの点で評価が高い。次世代無線通信や光通信,放送,ストレージの分野で採用が急増している(『日経エレクトロニクス』2005年1月31日号に関連記事)。

 LDPC符号関連の講演は,台湾・新竹市の国立交通大学の研究グループが開発した広帯域無線のUWB(ultra wideband)用ベースバンドLSI(講演番号24.2)と,伊仏合弁STMicroelectronics社が2005年1月に発表した衛星デジタル放送の新規格「DVB-S2」に準拠した復調・復号用LSI(講演番号24.3)である。

 台湾のグループが提出した論文によれば,UWB向けのベースバンドLSIは,MBOA(Multi Band OFDM Alliace)の変調方式を採用し,最大データ伝送速度480Mビット/秒を実現する。0.18μmルールのCMOSで製造しており,ダイ・サイズは6.5mm角。動作電圧は+3.3Vである。消費電力は523mW~527mWとベースバンドLSI単独としては大きい。トランジスタ数はIFFTなどの処理回路も含めて全体で426万個とやや大きい。チップ面積の53.7%をLDPC符号の処理回路が占める。

 LSIの性能は,UWBを使ったWPAN(wireless personal area network)の実現を目指すIEEE802.15 TG3aの基準を大きく上回った。パケット誤り率が8%以下という条件での最大通信距離は,拡散利得を変えてデータ伝送速度が120Mビット/秒では13.6m,480Mビット/秒では7.5mとなり,「120Mビット/秒で10m,480Mビット/秒で2m」という同基準よりも長い。変調方式はQPSKである。

 台湾のグループが採用したLDPC符号の符号長は600ビット,符号化率は3/4。検査行列のタイプは「セミ・レギュラー」,つまり行方向の重み(「1」である要素の和)は11~14と可変である一方で,列方向の重みは3と固定するタイプである。デコーダは,150個のメッセージ・ノード・ユニットと50個のチェック・ノード・ユニットで構成する。

「シャノン限界にあと0.305dB」とST社

 STMicroelectronics社が講演したDVB-S2の復調・復号用LSIは,130nmルール,および90nmルールのCMOSで製造した。90nm版のLSIは既にサンプル出荷を始めている(図1)。130nm版のLSIは,消費電力が200MHz動作時に1.54W,90nm版では,300MHz動作時に700mWとなった。LDPC符号の処理回路が対応する符号化速度は130nm版で標準90Mビット/秒,90nm版では同135Mビット/秒である。

 DVB-S2では,外符号にBCH符号,内符号にLDPC符号という誤り訂正符号の組み合わを利用する仕様になっている。衛星デジタル放送もHDTVに対応する必要が出てきたため,周波数利用効率を高める目的でDVB-S2にLDPC符号が採用された。同仕様が定めたLDPC符号の符号長nは6万4800ビット,または1万6200ビットと非常に大きい。この結果,トランジスタ数は850万個,ゲート数で150万ゲートと,大規模な回路となる。実際,LSIの誤り訂正処理回路部分の面積は130nm版が9.3mm×6.3mm,90nm版が4.3mm×3.7mmと大きい。

 同社の論文によれば,変調方式がQPSKの場合に,誤り訂正符号の理論的限界であるシャノン限界にあと0.305dBと迫る高い実力を持つという。これは,復号処理を50回繰り返した場合の結果である。