図1 FVDプレーヤでHDTV映像を再生するデモを展示
図1 FVDプレーヤでHDTV映像を再生するデモを展示
[画像のクリックで拡大表示]
図2 DVD Forumそっくりの組織構成で規格を策定
図2 DVD Forumそっくりの組織構成で規格を策定
[画像のクリックで拡大表示]
図3 台湾を代表する媒体メーカーによる試作ディスクがずらり
図3 台湾を代表する媒体メーカーによる試作ディスクがずらり
[画像のクリックで拡大表示]

 「台湾は『FVD』で,Nokia Corp.を擁するフィンランドのように世界に羽ばたく——」 2005年1月に米国ラスベガスで開催した「2005 International CES」のとある小さなブースで,1人の技術者が熱っぽくアピールしていた。台湾工業技術研究院 光電工業研究所 企畫及技術推廣組 技術推廣部 經理(Planning & Business Development Division, Manager)の陳泰元氏である。
 
 FVDは,赤色レーザでHDTV映像を再生するための光ディスク規格である(Tech On!関連記事)。台湾の企業や政府系研究機関が中心になって策定したものだ。光ディスク1枚に135分のHDTV映像を収録できる。

 赤色レーザを用いながら2時間以上のHDTV映像を収録できる理由は2つある。1つは,FVD媒体の再生用レーザに,DVD用レーザの波長である650nmより短い605nmの波長を出力する赤色レーザを用いたことだ。これにより,片面2層の光ディスクに9.8Gバイトの情報を収録できるようになった。これは現行のDVDより15%ほど高い容量となる。605nmレーザの製造コストは「工程や材料が従来品とほとんど変わらないので,650nm品と比べ微増にとどまる」(陳氏)という。もう1つは,圧縮方式にMPEG-2でなくWindows Media Video 9を採用していることだ。符号化データ速度は10Mビット/秒ほどを想定している。

低価格を武器に中国,インドに攻め込む

 FVD規格を推進する陳氏は「我々が狙うのは,台湾,中国,インド,ロシアなどの発展途上の国だ」と,普及に向けた戦略を語る。同氏が挙げた国は,いずれも映画など独自の映像コンテンツを保有している。これらの国では,低価格でHDTV映像を収録・再生できる光ディスク規格への需要は高いとにらんでいるわけだ。「日米欧の市場にこれから入っていくのは難しい。だが,他国を見ればまだまだ参入のチャンスは十分にある」(同氏)。

 これらの国にFVD規格を広めるためのカギとなるのは,機器の製造コストやライセンス料の低さである。FVD規格では,レーザや光学系などの部品はDVDに近いものを用いるため,青紫色レーザを使う次世代光ディスク装置と比べて大幅に値段を安くできるという。実際,2004年に発売したFVDプレーヤは200米ドルほどで販売している。「ライセンス料は,今は普及促進のために無料としている。将来は,DVDの半分以下の低価格に設定したい」(同氏)。

 映像圧縮技術の発達が生んだ徒花ともいえるFVD規格は,現在のところプレーヤの販売数が600台ほどで,普及の兆しを見せていない。とはいえ,台湾政府が強力に支援しているとみられる規格だけに,日本の光ディスク技術者も「今はまだ小粒だが,常にチェックしておきたい」と危機感を見せ始めていた。