中村氏の貢献度は「5%」,「404特許」の価値は「約1000万円」──「青色LED訴訟」和解決着で東京高裁は計算式を示す
「青色LED訴訟」または「404特許訴訟」として有名な,高額の相当対価をめぐる職務発明訴訟の控訴審において2005年1月11日,和解が成立した。和解金額は「6億857万円」。年率5%の金利を含めた総額として,日亜化学工業が中村氏に「8億4391万円」を支払うことになった。職務発明訴訟として2004年11月19日に和解が成立した,味の素の人工甘味料に関する「アスパルテーム訴訟」では,東京高裁は和解金額についての根拠を示さなかったが,青色LED訴訟では東京高裁は相当対価を計算し,それを和解金額に当てはめた。
和解金額の算出根拠を東京高裁が示したのは,日亜化学工業が「事実とは大きく乖離した一審判決の算定とは異なり,十分納得のいく相当対価の計算式を裁判所に示してもらうことを和解勧告を受諾する条件として挙げた」(同社)ことが背景にはあるようだ。
興味深いのは,中村氏が相当対価を求めたのは,青色LEDなどの窒化ガリウム(GaN)系化合物の結晶成長法「ツーフローMOCVD装置」の特許「404特許」1件についてだったが,東京高裁が示した和解勧告では,中村氏が日亜化学工業に在職中に発明者として名前を残した全特許について相当対価を計算した点だ。
これに関して,東京高裁は和解に際して示した「和解についての考え」に,「被控訴人(中村氏)のすべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価(相当対価)について,和解による全面的な解決を図ることが,当事者双方にとって極めて重要な意義のあることであると考える」と記述した。「中村氏側は404特許の次は,他の特許についても訴えるということを主張していた」(日亜化学工業)が,東京高裁は「将来の紛争も含めた全面的な和解をするため,和解の勧告をする次第である」(和解についての考え)という判断を下した。これにより,中村氏と日亜化学工業との訴訟による争いは完全に終結したこととなる。
東京高裁は,青色LEDなどの発明には404特許以外に,GaN系化合物をp型化する「熱的アニーリング処理」(アニーリング法)の特許や,低温GaN緩衝層(低温GaNバッファ層)の特許,ダブルへテロ構造に関する特許,量子井戸構造に関する特許,透明電極に関する特許,蛍光体と青色LEDを組み合わせて白色光を得るための特許など,重要あるいは有力な特許があることを認定した。他の特許を過小評価し,404特許の価値を過大評価した一審の判断とは大きく異なった判断だ。その上で,こうした特許を含む,中村氏が発明者として名前を残す全特許に関してまとめて相当対価を計算している。その結果として,東京地裁は上記の全特許に対する相当対価として,6億857万8801円と算出した。
この計算式における「変数」,つまり,実施料率と貢献度も一審判決の判断とは大きく異なっている。東京高裁の和解勧告では,先の全特許に対する実施料率を1994〜1996年までは「10%」,1997〜2002年までは「7%」とした。これに対し,一審判決では,1994〜2010年までの全期間において404特許1件の実施料率を「20%」と高く評価していた。
一方,東京高裁が和解勧告で示した,先の全特許に対する中村氏の貢献度は1994〜2002年の間で「5%」。中村氏は一審において「夢と言われた青色発光ダイオードを独力で発明した」と陳述し,一審判決では「50%」と極めて高い判断が下されたが,その1/10の評価となった。この貢献度の低さは「中村氏が青色LEDに関する特許を独力で発明したわけではないことを東京高裁が認めたことを意味する」(日亜化学工業)。
なお,日亜化学工業が競合他社とクロスライセンス契約を締結した2002年より後,つまり2003年以降については,1994〜2002年までの平均金額(平均の相当対価)に,重要な特許の平均残存期間である9年と,調整率の7割をかけて相当対価を算出した。
日亜化学工業側の弁護士である長島安治氏は,東京高裁が和解勧告で示した計算式を基に,404特許1件の相当対価を算出した。その額は,「最大限に見積もっても,1010万円」(同氏)。404特許の場合は一審判決後に,「基本特許ではなく代替技術がある」ことや,「ツーフロー方式には特許や論文などで先例があり,無効事由が含まれる」ことなど,特許の効力の大きさに関する疑問が,法律の専門家やGaN分野の研究者,同分野のメーカーなどから指摘されてきた。その指摘通り,極めて低い相当対価となった。
日亜化学工業は「中村氏の全特許を含めても6億円という相当対価は過大であり,決して納得しているわけではないが,この訴訟を続けても当社にとっては何のメリットもない(注:完全勝訴しても日亜化学工業が得られる金額はゼロ)。今後は社内のリソースをすべて本業に向けたい」という判断から,和解に応じたという。
ちなみに,本誌「日経ものづくり」2004年6月号の解説「青色LED訴訟の『真実』」では,一審判決が示した実施料率と貢献度,相当対価の高さに疑問があることを,メディアとして唯一検証した上で指摘していた。












