Panasonic Corporation of North America社 社長の河野優氏
Panasonic Corporation of North America社 社長の河野優氏
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 松下電器産業がプラズマ・テレビで大攻勢を掛けている。2004年半ばまでは,米国のプラズマ・テレビ市場で10数%のシェアに甘んじていたのが,同年9月以降は大飛躍,3カ月連続で30%以上を実現している。どうして,いきなり2倍ものシェアを獲得できたのか――。

 Panasonic Corporation of North America社(2005年1月付でMatsushita Electric Corporation of Americaから社名変更した)では,2004年7月にトップ・マネジメントが代わった。新社長に就任した河野優氏は,パソコン販売出身だ。米国警察のパトカー向けのパソコンなどで同社のシェアは圧倒的だが,その躍進を実現した立役者が河野氏だ。

 同氏はまず,やることを決めた。「Panasonicはプラズマ・カンパニーである」と宣言したのである。松下電器はプラズマ・テレビ,液晶テレビ,DLPリアプロジェクタ,液晶リアプロジェクタとたくさんのディスプレイを手掛けるが,「米国松下電器では絶対にプラズマ・テレビが最大のプライオリティ」と決断したのである。

 「Panasonicはプラズマ・カンパニーである」という言葉は,今回のCES開催の前日に開かれた松下電器の記者会見でも河野氏が高らかに言ったことだ。「シンプルが私のモットーです。あれこれ考えずにプラズマに集中すること。それが基本です」(同氏)。

 広告でも「プラズマなしの広告は許さない」という方針を立てた。デジタル・カメラでもDVDレコーダでもその広告の背景には,必ずプラズマ・テレビを配置するというこだわりようだ。とにかく,どんな時にもプラズマ・テレビを最優先にしたのである。

 次に,販売担当者に営業の基本を徹底的にたたき込んだ。「営業の基本に立ち返って,売るためのベーシックな施策をキチンととったのです。営業は基本的なことを,徹底的にやらなければなりません。それは警察にパソコンを売るのも,消費者にプラズマ・テレビを売るのも,まったく同じなのです。ディーラーの要望を聞き,間違いのない価格で,展示もしっかりとやる。基本中の基本ですね」(河野氏)。

人事評価も変え,トドメは…

 しかし,もちろんそれだけで2倍ものジャンプが達成されたわけではない。まず全米の主要なディーラーを250人の専門のセールスプロモーションで廻る絨毯爆撃作戦。「店員に商品のプラズマ・テレビを説明するのです。商品の魅力をきちんと、伝えることがきわめて重要なんです」。

 効果が大きかったのは,販売担当者の社内的における人事評価・査定方法を変えたこと。それまではディーラーにいくら売った(卸した)で査定していたが,今回からは最終ユーザー(お客さん)にディーラーがどれほど売ったかをチェックするようにした。それまでは無理して押し込んで,結局は不良在庫になったこともあったが,この施策をとることで「販売担当者が目の色を変えて,ディーラーと一緒に,いかに消費者にプラズマ・テレビの良さを訴えるかの作戦を練ってくれるようになりました」。

 トドメは大胆なディスカウント。米国のプラズマ・テレビには,HDTV対応機とEDTV機のの2種類がある。HDTV機は720p以上の画素構成,EDTVはワイドVGAサイズだ。このうち,米国での現在の売れ筋は圧倒的にEDTV型なのである。そのEDTV型は2004年の初めに4000米ドルほどしていたが,これを一気に3000米ドルを切るレベルに値下げした。

 これが米国の家電業界で巷間名高い「パナソニック・ショック」だ。一流メーカーのPanasonicが大幅値引きに踏み切ったことで,それ以下のイメージのメーカー製品もつられて値下がりし,今やそれらのEDTV型は2000米ドル以下で買えるようになっている。もともと私のみるところ,プラズマ・テレビの中では同社製品の画質は優秀であり,それを大幅値引きし,さらに営業態度も根本から改める…のだから,今回のシェア向上も当然だろう。