米Rice大学の研究者は,純粋な単層カーボンナノチューブから連続した繊維を作り出す方法を発見した。その手法はKevlarと呼ばれる繊維を生産する方法に似ており,純粋な単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を原料にした繊維やケーブルやシートの製造が,初めて実用化されるものと期待される。

 ナノチューブは,鋼鉄と比較して,その6分の1の重量分で100倍の強度を持つと推定されている。一方,防弾チョッキにも使われるKevlar繊維は,同じ重量の鋼鉄の約5倍の強度である。これまで工業生産に適した手法が存在しなかったため,純粋なカーボンナノチューブを使った大きなスケールの物が作られたことはなかった。

 Rice大学の研究チームは,大量のナノチューブを液体状に保存する方法を発見したことで,SWCNTを原料にしたマクロスケール製品を工業生産するときの大きな障害が取り除かれたと考えている。同チームは,ナノチューブを強硫酸に溶かすことで,純粋なカーボンナノチューブを硫酸溶液中に重量パーセント濃度10%で保存することに成功した。これまで達成された最高濃度の10倍以上である。

 化学工学助教授のMatteo Pasquali研究員によれば,「濃度が高まるにつれ,まず始めにナノチューブがスパゲッティー状の繊維に,最後は高密度の液晶になる。その液晶から純度100%の繊維が生成できる」という。

 これまでナノチューブを化学的に取り扱うことは容易ではなかった。ナノチューブを構成する原子は互いに強く結びついていて,毛球のようなかたまりとなる傾向がある。それをほどいてナノチューブを取り出す方法はこれまでにも開発されていたが,ナノチューブを生成した後にそれを保存することは困難だった。ナノチューブを保存する手段としては界面活性剤と水の溶液が用いられてきたが,その方法では容量パーセント濃度1%未満のナノチューブしか保存できず,また高分子溶液による処理が必要であった。しかし,それでは濃度が低すぎるため,ナノチューブ繊維の大量生産に対応できなかった。しかも,界面活性剤や高分子溶液をすべて取り除き,得られたナノチューブを純度100%の状態に戻す方法は見つかっていなかった。

 Pasquali氏は「ナノチューブを原料にして大きなものを作るには,純粋なナノチューブを高濃度で分散させることのできる液体を使って化学処理をしなければならない。今回の発見に基づいて考えれば,ナノチューブを原料にしたマクロスケールの繊維やシートを作るには超強酸を使うのがいい。化学工業で一般的に用いられているのと非常によく似た手法だ」と語る。(西村 勝彦)

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硫酸とSWCNTの液晶溶液の写真。容量パーセント濃度にして約5.5%のSWNTを含んでいる
硫酸とSWCNTの液晶溶液の写真。容量パーセント濃度にして約5.5%のSWNTを含んでいる