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マルマン,フラーレン入りゴルフクラブの秘密を公開

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2003/08/08 00:00
黒川 卓
出典:日経ナノテクノロジー, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)
 ゴルフ用品のマルマンは,フラーレンをヘッドに混ぜて“飛距離を15ヤードアップ”させた最高級ゴルフクラブ「ニューMAJESTY」(写真1)を2003年7月5日に発売。今回,本誌の取材に対して初めて技術的な内容を明らかにした。

 「MAJESTY」は,マルマンが1996年から販売しているゴルフクラブの最上位製品。今回のニューMAJESTYは,本荘ケミカルが製造するフラーレン(写真2)をヘッドの本体に0.1質量%混合したことが新しい。フラーレンの組成は,C60が75質量%,C70が20質量%,その他のフラーレンが残り5質量%。ヘッド本体の母材は,同社が従来から用いている代表的なチタン合金のTi-6Al-4V(チタン-6アルミニウム-4バナジウム。通称,64合金または64チタン)である。「フラーレンを混合することによってヘッド本体の肉厚を1mmから0.7mmに薄く,ヘッド全体の質量を195gから180gに軽くできた結果,重心の位置を設計しやすくなり15ヤードの飛距離アップにつながった」(マルマン開発部研究開発課の双田武夫氏)という。

 構造材料としての金属やプラスチックの強度を高めるために,各種炭素系素材の中からフィラー材料を選ぶ場合,一般的にはファイバー(繊維)が用いられる。従って,ファイバー以上の効果を期待して新素材のナノカーボンを用いるとしたら,普通はカーボンナノチューブの採用を思いつく。双田氏自信,「もちろん,カーボンナノチューブも試した。しかし,硬度が高まったが逆に脆くなり,クラブのヘッドとしては不適格だった」と話す。これに対し,球殻状のナノカーボンであるフラーレンを用いたところ,クラブとしての性能を高めることができた。64チタンに対して0.05質量%以上のフラーレンを混合して実験を試みた結果,0.1質量%の時に最適となり,混合量がそれより少ないと効果が無く,0.1質量%以上だと脆くなった。

 今回の新製品開発の主目的はクラブヘッドの肉厚を薄くすることにあったが,チタン合金の一般的な鋳造法である遠心鋳造法だと“巣”(cavity)が多く発生するため薄肉品には向かないと判断。大同特殊鋼が開発した鋳造法である「LEVICAST法」によって0.7mmの薄肉鋳造品を作ることができた。現在は,大同特殊鋼が2002年に設立したグループ会社の大同キャスティングスがこの製法でチタン合金の鋳造品を作っている。大同キャスティングス営業部特殊品室長の高松真治氏によれば,「LEVICAST法は高周波電流によって発生させる磁力で溶融チタンを半浮遊状態にし,炉壁と接しないままで鋳造できる方法。フラーレンは,溶融チタンの中に化学処理などしないでそのまま入れるだけ」(高松氏)と言う。

 ところでゴルフクラブのヘッドは,カップ状の「本体」と,ゴルフボールと接する板状の「フェース」の2つからなり,これらを溶接して作る。本体は鋳造品でフェースは圧延品である。今回マルマンは本体だけにフラーレンを混合したが,次の取り組みとしてフェースにフラーレンを入れたいと考えている。しかし,「既に実験を行っているが,うまく混合できない」と双田氏は話す。

 今回,フラーレンを入れたことでヘッドの特性が上がったメカニズムについてはまだはっきりわからないという。少なくとも,「ナノチューブはチタン合金との濡れ性が低いのに対して,フラーレンは高い」と双田氏は話す。フラーレンを製造する本荘ケミカル東京支店次長の伊東正博氏は,「フラーレンの主成分であるC60の直径はわずか0.7nm(7Å)と小さく,電子顕微鏡を用いても合金中に入っている位置を観察できない。チタン合金の結晶格子に対してフラーレンが1つの元素と同様に置換型か侵入型で固溶しているのかもしれない」と本誌に述べた。

 そもそもフラーレンをゴルフクラブに入れようと考えたきっかけは,「正直言うと,新素材使用というキャッチフレーズが効き目ある」とマルマン経営企画室の大塚賢二氏は話す。このため,マルマンの技術者は常に国内外で行われている材料研究の論文に注目しており,フラーレンもその中から選んだ。しかし,最初に注目した1997年末にはフラーレンの価格は1g当たり10万円以上し,とてもゴルフクラブには使えなかった。それでも研究は続け,2001年春にマルマンゴルフ(現マルマン)の設立30周年記念に1000本限定で生産し,1本当たり30万円で完売した。その後,本荘ケミカルがフラーレンの量産法を開発し,「フラーレンの価格が1g当たり1000円以下まで下がったことで,今回の本格採用に踏み切ることができた」と大塚氏は言う。旧MAJESTYの販売価格は,20万円と10万円の2種類。フラーレンが安価になったことで,フラーレンを混合したニューMAJESTYでは価格を変更する必要はなかった。(黒川 卓)

【写真1】マルマンの新製品「ニューMAJESTY」
【写真1】マルマンの新製品「ニューMAJESTY」

【写真2】来客への説明用にマルマン社内に掲示された本荘ケミカルのフラーレンの製法マップ
【写真2】来客への説明用にマルマン社内に掲示された本荘ケミカルのフラーレンの製法マップ