超微細構造がナノスケールに突入し,従来の製造プロセスが対応できる限界まで達する日は間近に迫っている。半導体関連業界は,新しい製造プロセスの開発に必死だ。そんな中,ここ数カ月間に,次世代の超微細加工プロセスとして注目度が一気に高まっているのが,ナノインプリンティング技術だ。特に,マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)およびナノエレクトロメカニカルシステム(NEMS)の分野では,この新技術が主役となりつつある。

◆NECや三井物産系のDNRIがバイオMEMSに採用
 近年,MEMS/NEMSの応用分野として研究開発が最も活発なバイオMEMS。その作製法として,ナノインプリンティングを採用する動きも,ここにきて活発化してきた。

 例えば,NEC。医療用診断チップ向けなどとして研究開発中のバイオMEMSの作製法として,ナノインプリンティングを採用している(2003年2月28日付の記事参照)。

 ナノインプリンティングは,まず金型を作製し,それを用いてプレス成形するというDVD-ROMなどの製法と同様の技術。金型にはシリコンウエハを使い,電子線リソグラフィーでナノスケールの微細構造を描画する。そして,これを対象とする素材にプレスし,金型の微細構造を転写する。

 作製する微細構造の細かさは,「DVD-ROMの方が,バイオMEMSの試作品よりも細かい」(基礎研究所ナノテクノロジーTG主任の服部渉氏)。そのため,実用化する上で,生産性やコスト面で大きな問題はないと,NECは考えている。

 三井物産の100%子会社で,MEMS技術で新デバイスを開発として1月に設立したばかりの新会社であるデバイス・ナノテク・リサーチ・インスティチュート(DNRI,本社東京)も,作製法としてはナノインプリンティングを採用する(2003年1月16日付の記事参照)。一塩基多型(SNP)の解析チップなどバイオMEMSをはじめ,光通信用の次世代デバイスなど,すべての新デバイスをナノインプリンティングで作製するという。

◆省エネ・省資源,低コストでも有望
 なぜ,このナノインプリンティングが注目されているのか? それは,作製プロセスで消費するエネルギーおよび資源が,従来のリソグラフィー技術と比べて大幅に削減できる可能性があるからだ。

 金型の作製に用いる電子線リソグラフィーの消費エネルギーは大きいものの,プレス成形による転写プロセスの消費エネルギーは極めて小さい。トータルで見れば,従来のリソグラフィーよりも大幅に省エネ化できる。しかも,従来法で必要だったマスク素材などは使わずに済むので,省資源化にもなる。マスキング工程も必要ないので,生産性を高めるのにも有利だ。これらすべてを考えれば,低コスト化も期待できる。

 新分野であるMEMS/NEMSで量産技術として確立すれば,一般的な半導体デバイスの製造プロセスをも,ナノインプリンティングが置き換えてしまう可能性は決して低くないだろう。