セイコーエプソンは,インクジェット技術を活用した新しい超微細配線技術を開発。線幅,線同士の間隔ともに500nmの金配線を描画することに成功した。社団法人・高分子学会が2002年4月16日に東京工業大学の百年記念館(東京・目黒区)で開催した「2002/1ポリマーフロンティア21 微細加工技術の将来展望」における講演「マイクロリキッドプロセスを用いたデバイス創生とその将来展望」の中で,同社の研究開発本部テクノロジープラットフォーム研究所研究所長である下田達也氏が明らかにした。

 同社はプリンター向けのインクジェット技術を発展させ,業務用の高性能プリンターヘッドや,さらに産業用の高精度インクジェットヘッドを事業化している。この講演では主に,液晶ディスプレイ用のカラーフィルター,有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ,有機TFT(薄膜トランジスタ)の作製に,インクジェット技術を適用した事例について解説した。いずれも,数μm~数十μmレベルの微細パターンを,インクジェット技術で作製している。

 また,銀のナノ粒子を使い,インクジェット技術によってPDP(プラズマディスプレイパネル)の電極も試作しており,国際ディスプレイ学会(SID)が2002年5月19~24日に米国のボストンで開催する大会「SID 2002」で,その成果を発表するという。ただし,この電極の線幅自体は50μm。発表日時は22日の午前10時20分で,アルバックおよび富士通研究所との共同研究として発表する。

 ナノスケールの新配線技術については,学会などで正式に発表する時期は未定だという。同社のインクジェットヘッドは圧電素子を用いるタイプで,「インクジェットによる描画精度そのものは数μm~数十μm程度」(下田氏)という。新技術の詳細は明かさなかったが,下田氏はポイントの1つとして,「配線を描画する基板上に,親水性とはっ水性のパターンを高い精度で作製しておくこと」を挙げている。このパターニングによって,吐出するインクが付着する領域を制御し,配線の精度を高めているのだ。

 同様にナノスケールの配線向けにインクジェット技術を適用する開発事例としては,2002年4月に独立行政法人・産業技術総合研究所が発表した独自方式の超精密インクジェット技術(2002年4月3日付の記事参照)がある。これらインクジェット技術が進歩すれば,半導体デバイスの生産設備を大幅に小型化かつ省エネルギー化でき,オンデマンド生産も可能になるかもしれない。