タカタ製エアバッグインフレーターの巨大リコールに至る道は、1990年代後半に始まった。リスクを果敢に取って、ガス発生剤に硝酸アンモニウムという化合物を選んだことだ。タカタの技術者は、地道な努力で実用化にこぎ着ける。万全を期したはずだった。だが、見落としがわずかにあった。長い時間をかけて、少しずつ水分が入っていた。

 過去最大の自動車リコールの原因となったタカタ製インフレーター(図1)。同部品は、筒内に入れたガス発生剤(火薬類)を着火したときの化学反応で、気体になる現象を利用する。インフレーター容器に空けた小さな穴から気体が吹き出し、エアバッグの袋を膨らませる。

図1 調査リコールの対象となったタカタ製インフレーター
(a)助手席エアバッグ用。(b)運転席エアバッグ用。
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 そのガス発生剤の中核となる化合物に、タカタは硝酸アンモニウムを使っている(別掲記事参照)。エアバッグが破裂する原因の究明が、いまだに続く巨大リコール。その源流をたどると、タカタが同化合物を選んだことに行き着く。

 タカタが、硝酸アンモニウムを搭載したインフレーターを実用化したのは、2000年頃である。競合他社をして、「尊敬の念すら覚えた」と言わしめるほど、画期的だった。硝酸アンモニウムは、インフレーターメーカーにとって、「使いたくてたまらないが、極めて厄介」という、大きな魅力と欠点を備えた化合物だからだ(図2)。

図2 硝酸アンモニウムは極めて魅力的な化合物だ
低コスト・小型・環境性という自動車部品に欠かせない3拍子を備える。
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表1 タカタの概況
高田重久氏は創業家の3代目。
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 競合他社も実用化に挑みながら、皆「あきらめた」。そんな中、さっそうと登場したタカタのインフレーターは、他社品に比べて小さく安く、売れまくった。この10年でタカタの売上高は5割近く増え、2014年度は6428億円に達した(表1)。逆説的だが、魅力的な製品でなければ、巨大リコールを招くほどに多くの自動車メーカーが採用しなかった。

 当時のタカタの技術者は、硝酸アンモニウムを採用できたことに、誇りを抱いていたはずだ。それが今や、同化合物は巨大リコールを招くきっかけになったとして、「悪者扱いされる」(タカタ)。現在は、造っているのはリコール用の交換品ばかりとされる。一方で競合他社は、同社の失地を尻目に新規採用を増やし始めた。タカタは一体、何を誤ったのだろうか。