2015年6月に開始した島根県津和野町での実証実験の様子(図:NEC)
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 土砂斜面が崩壊する数時間前に崩壊を予測し、住民に避難を促せる。そんな技術をNECが開発した。土砂災害の監視システムとしては、カメラやワイヤー、傾斜センサーやなどを用いる方法が既に実用化されている。ただし、これの方法は斜面崩壊の前兆現象(傾斜の変化)を検出するものなので、前兆を検出してからわずかな時間で実際の崩壊が起きることがある。このため住民の避難時間を考えると、より早い段階から土砂の状態を把握する方法が求められていた。

 NECが開発したのは、土砂に含まれる水分量や降雨による土砂の微細な振動から土砂斜面の崩壊を予測するデータ解析技術。ゲリラ豪雨などが発生したとき、斜面の崩壊の危険性をリアルタイムに把握できる。2015年6月に島根県津和野市で技術の有効性を検証する実験を開始しており、1年間の実証を通じて2015年度中の実用化を目指す。

 同社が今回の技術で注目したのは、「修正フェレニウス法」と呼ばれる土砂斜面の安全度を評価する方程式だ(図1)。この方程式の妥当性は実験施設や過去の災害事例での検証で明らかになっているが、災害監視のシステムでは使われていなかった。この式を使って安全度をリアルタイムに算出するには、降雨量で変化する「土砂の重量(W)」「水圧(u)」「土砂の粘着力(c)」「土砂の内部摩擦角(φ)」を取得する必要があるためだ。従来は、これらの値を得るために4種類のセンサーを用いなければならなかった。しかも、どこで起きるか分からない斜面の崩壊を予測するには、より多くの場所にセンサーを設置しなければならない。このため、この方程式を災害監視システムに適用するのがコスト的に難しかったという。

図1 斜面崩壊を数式で予測
土木工学で一般的に土砂斜面の危険性の評価に用いられている斜面安定解析式。この式で安定度をリアルタイムに算出するには、降雨量で変化する「土砂の重量(W)」「水圧(u)」「土砂の粘着力(c)」「土砂の内部摩擦角(φ)」を取得する必要がある。(図:NECの資料を基に本誌が作成)