本コラムでは、日本に生産拠点を置く外資系半導体メーカーで長く技術マネジメントに携わった江本知正氏が、これまでの経験を基に、グローバル時代を技術者が生き抜くために必須となるコミュニケーション・スキルの重要性を紹介する。具体的には、人の話を聴くことの大切さ、情報発信にあたって注意すべきこと、また日々の仕事への取り組み方などを取り上げる。

 私たちは一人ひとり異なる環境で育っています。学んできた過程もさまざまですし、経験や信念、価値観、そして感情もまちまちです。言語のスキル(ボキャブラリーや文章の構成能力)もおのおの違います。兄弟として同じ家庭で同じ両親に育てられても、別々の個性を持っています。これらは例えて言えば、一人ひとりが多数の色の違うフィルターを持っているようなものです。

 私たちが何かの情報を自分以外の人に伝える場合、まず自分の心の中で伝えたい内容を考え、言葉なり文章なりに載せて相手に伝えます。この時、情報は発信者が持っているフィルターを通して発せられますので、その情報は当然のことながら発信者の信念や価値観や経験などによってフィルタリングされた情報として発信されます。

 情報の受信者も同じようにさまざまな色のフィルターを持っていますので、発信された情報はそれらのフィルターを介して受信されます。私たちは、こうしてお互いが持っているたくさんのフィルターを介してしか他者とのコミュニケーションができないのです(図1)。

図1 コミュニケーションのモデル
我々は、お互いが持っているたくさんのフィルターを介してしか他者とのコミュニケーションができない。 イラスト:高松啓二
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