エレベーターには、安全を確保するための原則が幾つか存在する。「“かご”が止まっていない階の扉は開かない」というのもその1つだ。その原則が破られた時、悲劇は起きた。かごがないのに扉が開いた原因は、安全装置の不備にあった。

 2012年2月6日、東京・品川の複合商業施設「大森ベルポート」の荷物用エレベーターで、かごに荷物を運び込んでいた作業者(以下、作業者X)が昇降路に転落する事故が発生した。作業者Xは昇降路の底部で倒れているところを別の作業者(以下、作業者Y)によって発見され、病院に搬送されたものの亡くなった。

 この事故を受けて、国土交通省社会資本整備審議会の昇降機等事故調査部会(以下、調査部会)*1は、3回に及ぶ現地調査や資料調査を実施。調査結果をまとめた報告書を2015年4月に公表した1)。以下では、報告書の内容に沿って原因や再発防止策を説明していく。

*1 昇降機等事故調査部会
エレベーターやエスカレーターの事故について、原因究明および再発防止策の提言を手掛ける組織。各界の有識者が委員を務めている。