これまでの2回(2015年4月号と5月号)では、主に「スピード」というキーワードから、最終製品や治工具などを製造する装置として3Dプリンターを活用している事例と、それによって変化が生じ始めているサプライチェーンについて紹介した。今回は、3Dプリンターの活用を発展させる上で欠かせないもう1つの要素について取り上げたい。それは、3Dデータの存在である。3Dデータがなければ3Dプリンターで何も造形することはできないからだ。

 3Dデータを手に入れる方法は主に3つある。3D-CADなどのモデリングツールで作成する方法、3Dスキャナーによって実物から取り組む方法、そしてインターネット上のデータ共有サイトなどから3Dデータをダウンロードする方法である(別掲記事参照)。

 この中で今、最も注目を集めているのが3Dデータをダウンロードする方法である。自分が求める形状に近いものを探し出し、ダウンロードした上で必要に応じて微修正するだけで済む。そのまま使用できる場合も少なくない。多くのユーザーにとって、最も効率よく、早く、3Dデータを入手できる手段だ。

 現在、世界最大の3Dデータの共有サイトと言えるのが「GrabCAD」である(図1)。2015年5月の時点で、3Dデータを中心に82万点以上のファイルが登録されており、ユーザー登録すれば誰でもそれらを無料でダウンロードできる。既にある3Dデータをダウンロードするだけでなく、このサイトの利便性を認識したユーザーが自分で作成した3Dデータをアップロードしており、3Dデータの数は日々増え続けている。

図1 GrabCADのメイン画面
ファイル共有だけでなく、協業を支援するさまざまな機能を提供する。
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 実は、GrabCADが持つ機能は3Dデータの共有にとどまらない。大きく3つの機能を持っており、それらは多くの人が協業してものづくりを進めていくオープンイノベーションの基盤となっている。

 具体的には、複数のユーザーによる共同プロジェクトを支援する「GrabCAD Workbench」、ファイル共有やコミュニケーション機能を提供する「GrabCAD Community」、デザインや設計のアイデアを世界中の技術者から募って競わせる「GrabCAD Challenge」だ。これらの機能を提供するGrabCADのユーザー数は爆発的な増加を続け、現在その数は215万人を超えている。以下、それぞれの機能の詳細について紹介していこう。