NTTドコモや新潟市と組んで、水田用センサーなどを活用した稲作農家の支援プロジェクトを始めたベンチャー企業のベジタリア。同社を率いる小池氏は、ITベンチャーの経営者から農業に転じた異色の人材だ。50年も昔の「緑の革命」の手法から脱しきれない日本の農業を、IT技術で刷新しようと意欲を燃やす。(聞き手=今井拓司、三宅常之、中島募)

――農業に目を付けた理由は。

こいけ・さとし
1959年生まれ。iSi 電通アメリカ取締役副社長兼COOなどを経て、1998年にNetyear Group,Inc.をMBOし独立。シリコンバレーを中心にベンチャーキャピタリストとして活動。2006年にネットエイジグループを株式公開(公開後ngigroupに社名変更。現ユナイテッド)し、2009年まで代表執行役CEOを務める。2010年ベジタリアを設立し、代表取締役社長に就任。(写真:加藤 康)

 私自身は、もともとITの世界に長くどっぷりいたんです。1990年代はずっと米国にいて、シリコンバレーを中心にしたベンチャーキャピタリストだった。インターネットのそれこそ黎明期のころで、アメリカのネット系企業への投資とか、創業支援などをしていました。アメリカでネットイヤーグループという会社をつくって、ネットエイジという会社もやりました。もう死語になっているかもしれないですけど、「日本にもシリコンバレーを」みたいなことで「ビットバレー」という構想をつくってやったりしていました。

 当時からアメリカの起業家はキャリアデザインというか自分の人生のデザインを、ある程度いろいろ考えていて、みんなで食事をしたり飲んだりするときにそんな話も出てくる。一生どこかの会社に勤め上げてという人もいるんですけど、やっぱり大学はコンピューターサイエンスへ行って、3年ぐらい米Intel社とか米Microsoft社に勤めて、その後MBAを取って、コンサル会社か投資銀行へ行って、ベンチャーのスタートアップに絡んで、自分で創業して上場して、その後はちょっとアーリーリタイアメントも兼ねて投資家側に回るとか、若いころからそういうことを考えている人が多い。僕もそういった意味では人生の後半戦は、ちょっと地に足を着けて、できれば社会的に意義のあるテーマを見つけてやりたいなと思っていたんですね。

 ちょうど2007~2008年ごろ、会社も上場していたんですが、社長としてやりたいことがあまりできなくなったので、次のテーマを見つけようと考えました。なかなかアイデアがなかったので、大学に勉強しに行くことにしたんですね。それが東京大学のEMP(エグゼクティブ・マネジメント・プログラム)という社会人向けのビジネススクールで、僕はその第1期生。そこでエネルギー問題から何から一通り勉強した中で、ふと興味を持ったのが農業だったんです。エネルギー問題も大事だけど、人間のエネルギー源である食料を作っている産業ってすごい大事じゃないかとふと思ったんですね。そもそも次に何をやるかと考えたときに、人間は何のために働くんだろうと自問自答したんです。食うために働くんだと。

 当時、農業の授業もあったんですが、どの先生から聞いてもあんまり根本的な課題がよく分からなくて、ほとんど政治的なイシュー(問題)だったんですよね。要は保護産業で、ITが使われてない唯一の産業といったら農業ぐらいしか残ってないということが分かって。ところがそんな状態が長く続くわけはなくて。金融の世界でもそういう規制があって、ビッグバンでそれが緩和されて、どんどん産業が広がりました。同じことが農業にも必ず起こると思って、なおかつ人間のエネルギー源であり、非常に重要な産業だと。

 さらに、今の世界の人口は70億人を超えましたよね。2050年には92億人になるので、今から20億人分の食料が必要になってくる。今のままでは限界が来て相当大きな問題になります。生産が追い付かないとしたら、飢餓や戦争が起こるかもしれません。また、今の(農業の)やり方ではどんどん環境が破壊されていて、適切な農地が残ってない。このイシューは相当やりがいがあるし、ITが使われてないので今までの経験がすごく役に立つんじゃないかなと。また、「6次産業化」と言われていますけど、基本的にはあれはビジネスモデルのイシューで、今まで山ほどビジネスモデルを作ってきたので、そこでも何かいろいろできるんじゃないかなと思いまして。

6次産業化=農業などの1次産業を、食品加工などの2次産業や流通などの3次産業と一体化した事業にすることで、付加価値の向上や雇用の創出などを目指すこと。