東京大学大学院(理学系研究科 化学専攻)教授の大越慎一氏と筑波大学(数理物質系)准教授の所裕子氏らの研究グループは、熱を蓄えた後に圧力を受けるまで放熱しない「蓄熱セラミックス」を開発した(図1)。工場や自動車の排熱の有効利用や太陽熱発電システムなどへの応用に向けて、自動車メーカーや材料メーカーなどから問い合わせが相次いでいるという。大越氏は、それ以外の応用例としてポケットカイロや感圧シートなどを挙げる。

図1 熱エネルギーを蓄え続けるセラミックス
東京大学らは、熱を蓄えた後に圧力を印加するまで放熱しない蓄熱セラミックスを開発した。
 蓄熱材料には一般的に、レンガが熱を蓄えるように物質の比熱を利用する「顕熱材料」や、固体から液体といった相転移する際の熱の出入りを利用する「潜熱材料」がある。いずれも時間の経過とともに、蓄積した熱エネルギーを徐々に放出してしまうため、蓄熱できる期間が限られたり、熱エネルギーの利用効率を引き下げたりする一因になっていた。例えば、太陽光で蓄えた熱を、その日の夜に利用するといった使い方が多かった。

 これに対して大越氏らが開発した蓄熱セラミックスは、潜熱材料と同じように固体から固体への相転移を利用しているものの、蓄熱後に時間が経過しても熱エネルギーを放出することがない。蓄熱状態から放熱状態に移行する相転移が、60MPaの圧力をかけない限り起こらないからだ。熱エネルギーを必要とするまで、エネルギーを劣化させることなく蓄え続けることができる。蓄えられるのは230kJ/Lで、これは水が固体から液体に相転移する際の320kJ/Lの約70%に、エチレングリコールが固体から液体に相転移する際の165kJ/Lの約140%に相当する。