マレー半島の南端、東京23区とほぼ同じ面積に547万人が暮らすシンガポール。限られた土地を有効活用するため、自動車の所有を厳しく制限するなど、独自の交通政策を実施している。今後は自動運転によるカーシェアリングの実用化や隣国マレーシアの都市開発など、新たな動きを加速させそうだ。

 2014年10月、シンガポール南西部のチャイニーズ・ガーデンとジャパニーズ・ガーデンを使って、同国初となる自動運転車の一般試乗会が行われた。主催はシンガポールの情報通信開発庁(iDA)と陸上交通庁(LTA)。車両を開発したのはシンガポール国立大学(NUS)と米マサチューセッツ工科大学(MIT)の共同研究アライアンス「SMART(Singapore MIT Alliance for Reasearch and Technology)」の開発チームだ(図1)。

図1 「SMART」の自動運転車開発チーム
シンガポール国立大学(NUS)と米MITの共同研究プロジェクト「SMART」で自動運転車の開発を進めているメンバー。
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 車体はゴルフカートを改造したもので、ドイツのSICK社製レーザースキャナーを前部に二つ、後部の左右にそれぞれ一つ、合計4基装着した。さらに前方と車内に向けた2台の小型カメラを搭載する。レーザースキャナーは照射角度が左右方向に270度の2次元タイプ、照射距離は30~40mだ(図2)。GPSなどの衛星通信は使用せず、4G通信で得た位置情報をクラウドに送信する。参加者はスマートフォンとPC向けのアプリで試乗車を予約し、公園内10カ所のステーションで乗り降りした。

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図2 開発中の自動運転車のセンサー
この車両は一般試乗会で使われたものではなく、SMARTが開発中の実験車両。ベース車は三菱自動車の「i-MiEV」。車体の前部(a)と後部(b)にSICK社製レーザースキャナーを装着している。

 2台の車両に6日間で延べ500人以上が試乗し、計220回の移動で累計走行距離は360kmに達した。試乗後に行った223件のアンケート調査では、全体の98%が自動運転をもう一度体験したいと答え、95%がこの公園に自動運転車が設置されればまた来場したいと、好意的な回答が多数だった。