市場が急成長中の新興国は、生産拠点としても大きな注目を集めている。だが、自動化設備や機械の導入コストを吸収できる生産量にはまだ達しておらず、人手に頼る工場を設置するケースも少なくない。ベトナムもそうした傾向が強い新興国の1つだ。ベトナムに工場を構える日本メーカーは、現地の事情を踏まえた工場展開を実施している。

造りやすい設計

 パナソニックエコソリューションズ社は、ベトナムのホーチミンに新工場(Panasonic Eco Solutions Vietnam社)を建設、2014年11月からフル稼働を開始した。配線器具やブレーカーを中心に、組み立て作業と樹脂製部品の成形を行う。

 ベトナム新工場には、2つの組立工程が併設されており、生産量に応じて使い分けている(図A)。1つは、1カ月当たり30万個程度を超える大量生産品で、コンベヤーラインで造る。もう1つは、1カ月当たり30万個未満の小・中量生産品で、セル生産で対応する。両方とも製品を組み立てるのは作業者である。

図A パナソニックエコソリューションズ社のベトナム新工場
2つの組立工程があり、大量生産品にはコンベヤー生産を、小・中量生産品にはセル生産を使う。組み立て作業は作業者が行う。
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 作業者に頼るのは、日本と比べて1/10程度と低い労務費の利点を生かすためだ。また、金属製部品に関しては、既に大量生産を行っているタイ工場から輸入する。これは、現状のベトナム工場の生産量では、高額なプレス用金型の費用などを回収できないからだ。

図B 組み立てやすい設計を施したスイッチ
一方向に部品を挿入することで組み付けが完了する。作業負荷を軽減し、ミスも減らせる。
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 作業者に頼る分、パナソニックは作業しやすい設計を製品に採用している。ベースとなる部品(ボディ)に対し、一方向(上から下)に部品を取り付けることで組み立てが完了する設計だ(図B)。作業負荷を軽減できるだけでなく、ミスも減らせる。

 こうした設計の工夫は、実は将来的な自動化をもにらんだものだ。ベトナム市場が順調に成長すれば、生産量がより増大する一方で、労務費も上昇する。さらに、経済発展により職業選択の自由度が高まり、工場は人手不足になるリスクもある。既に中国ではそうした現象が起きている。一方向に部品を組み付けていくだけで製品が組み上がる設計は、産業用ロボットや自動化設備にも適用しやすい。