2014年4月25日の18時過ぎ、コマツキャステックス(本社富山県氷見市)の工場で鉄スクラップなどの精錬作業中だったアーク炉から突如炎が上がり、熱風が噴き出した。昇温のための酸素の吹き込み(吹精)が完了した直後の事だった。熱風の勢いで炉の蓋が開くなどして溶鋼が周囲に飛散するとともに、熱風が炉前で作業していた作業員を襲い、うち1人が死亡、4人が火傷を負う惨事となった。

 いつも通りの作業だったのになぜ事故が発生したのか。社外の専門家などが加わった事故調査委員会が原因を調べてみると、極めてまれな現象が起こっていたことが分かった*1。しかし、単に珍しい現象というだけではなく、そこには設備変更に際してのリスク評価の甘さも垣間見える。2014年12月末に公表された事故最終調査報告書(以下、調査報告書)を基に、事故の詳細をみてみよう1)

*1 事故調査委員会は、コマツキャステックスの親会社であるコマツの社員3人で構成する事務局と外部の有識者3人の6人から成る。

導入半年余りの新設備

 事故が起こったのは、コマツキャステックス本社工場の鋳鋼精錬センター。2基あるアーク炉(処理能力15t)のうち、「B炉」と呼ばれている炉である(図1)。アーク炉は、炉の上部から挿入した黒煙電極に交流電流を流し、炉内に投入した鉄スクラップなどとの間にアーク放電を生じさせてその熱によってスクラップを溶解する。炉の正面には炉内のスラグなどを排出するための除滓(さい)口が、反対側には溶けた鋼(溶鋼)を排出する出鋼口が備わっている。

図1 事故のあったアーク炉の概要
溶鋼を出す「出鋼口」の反対側にスラグなどを排出する「除滓(さい)口」がある(a)。(b)の写真左は炉蓋が閉まった状態、右は開いた状態。事故調査報告書を基に本誌が作成。 写真:コマツ
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