(写真:Getty Images)

次々世代、あるいは2030年の技術と考えられていた全固体2次電池が、大幅に前倒しで実用化され始めた。既存のLiイオン2次電池の性能を2倍以上上回る製品も3年ほどで登場しそうだ。1回の充電で500km以上走れるクルマの登場も遠くないかもしれない。

 スマートフォンやウエアラブル端末、電気自動車(EV)、そして家庭や電力事業者向け蓄電池の質量エネルギー密度が今後3年ほどで2倍以上、同容量では価格が1/2以下になる可能性が出てきた。これを実現するのはいわゆる全固体2次電池である。いくつかの海外の電池メーカーが既に実用化、または実用化に向けて急速に歩みを進めている。日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が掲げる開発ロードマップを、約10年も前倒す動きだ。

 全固体2次電池は、電解質として従来の有機系電解液などの代わりに固体材料を用いている蓄電池である。有機系電解液は揮発して発火、爆発する恐れがあるのに対して、全固体2次電池の電解質にはその可能性がないのが大きな特徴だ。

 従来は、技術課題が多く既存のリチウム(Li)イオン2次電池に性能が及ばなかったが、最近は匹敵する性能を備えた製品が出始めた。近い将来には既存のLiイオン2次電池を性能や安さで大きく上回ると主張するメーカーが続々と出てきている。

電池パック年産1万個から増産へ

 全固体2次電池には多くの実現技術がある。現時点で既に実用化済み、または実用化に近いといえるのは、電解質に高分子樹脂(ポリマー)シートを利用するタイプである(図1)。

図1 海外でEV向け全固体2次電池が続々実用化へ
(a)は既に量産され、利用が進んでいるBatScap社の金属Liポリマー電池(LMP)を搭載したEV。パリのカーシェアリングサービス「Autolib」で3000台近くが利用されている。(b)は、Seeo社がEV向けにサンプル出荷を始めた金属ポリマー電池。(写真:各社)
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 実用化済みなのは、フランスBolloré社の子会社であるフランスBatScap社の全固体2次電池である。負極材料に金属Li、電解質にポリマーシートを用いていることから、金属Liポリマー電池(LMP)と呼ばれる。

Bolloré社=フランスの複合企業の持ち株会社。1822年に製紙会社として発足した。現在は、製紙、ポリプロピレンなどのフィルム事業に加えて、交通、輸送、エネルギー、ゴムの製造、通信、メディア、広告など多分野に事業を広げている。従業員は約3万人、年間売上高は約100億ユーロ(約1兆4000億円)である。

 Bolloré社は2011年12月、フランスのパリとその郊外で独自開発のEV「Bluecar」を利用した乗り捨て可能なカーシェアリングサービス「Autolib」を開始した。Bluecarが30kWh分のLMPと電気2重層キャパシタ―を搭載している。

 Autolibの利用者はほぼ右肩上がりで増え続けている注1)。最近はAutolibと同様なサービスをパリだけでなくフランスのボルドーやリヨンでも始めた。2015年には米国のインディアナポリスでも始める。EVだけでなく、LMPを搭載した電気駆動のバス「Bluebus」も開発し、フランスだけでなく欧州各国やアフリカにも輸出し始めた。2014年末までに約50台を出荷したとする。さらには、フランスRenault社とも提携し、容量が20kWhのLMPを利用した3人乗りの小型EVを2015年後半に共同開発する。

注1)Autolibでは、サービス開始から3年超が経過した時点で約2900台のEV、約900カ所のサービスステーション、約4500台の充電器が稼働している。サービス加入者はのべ18万人以上で、その4割弱の約7万人がアクティブユーザー。1日約1万8000回の利用があるという。
Bluebus=Bolloré社が開発した20人乗りの電気駆動小型バス。BatScap社のLMPで走る。航続距離は最大120km。

 こうしたサービスや車両の拡大を受けて、BatScap社は現在の年間300MWh(30kWhの電池パック1万個)の電池生産能力を順次拡大し、2019~2020年には3倍超の約1GWhにする計画である。