地震や火山噴火、大雨、津波など自然災害が発生した際、まず必要になるのが現状把握だ。夜間や厚い雲、噴煙などによって視界が遮られると空から地表の状態を確認できない。この問題を解決するべく、NECが開発を急いでいるのが、夜間でも高分解能で撮像可能な小型のマイクロ波レーダーである注1)。セスナ機やヘリコプターなどの小型航空機に搭載できるのが特徴で、災害時の状況把握や救助支援、環境監視、偵察・監視などの他、農業分野への使用を想定している(図1)。2014年度内(2015年3月まで)に研究を完了して、2015年度からの実用化を目指す。

図1 NECの新型レーダーを搭載したセスナ機
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注1)NECは、総務省の「小型航空機搭載用高分解能合成開口レーダーの研究開発」を受託して研究開発を進めている。

 NECが開発しているのはXバンド帯(9GHz帯、波長約3cm)を使うレーダーで、最高30cmの分解能と2.5~10kmの観測幅(飛行高度が3000~6000mの場合)を備える。雲や煙なども透過して撮像することができ、飛行高度によらず高分解能で物体を検出することが可能だ。仮想的に巨大なアレイアンテナ(合成開口アンテナ)を形成する「合成開口レーダー(SAR)」という方式を採用している。移動しながら何度も電波を送信し、戻ってきた反射波を合成することで仮想的な巨大アンテナを形成する仕組みだ。

体積を20%に小型化

 実は同社は1970年頃からSARを手掛けており、日本初の航空機搭載用(1994年)やJAXAが打ち上げた地球観測衛星「ALOS(通称:だいち)」用(2006年)などを開発した実績を持つ。2008年に開発した航空機搭載用の「Pi-SAR2」は、電界成分が水平方向に振幅して伝播する「水平偏波」と、垂直方向に振幅して伝播する「垂直偏波」を組み合わせることで、地表の3次元(高さ)情報取得と疑似カラー化を実現した(図2)。

図2 新型レーダーによる仙台空港上空の撮像図
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 ただしPi-SAR2はレーダーの信号処理装置が大型のサーバーラック2台分、レーダードーム(アンテナとアンテナを保護するドーム型のカバー)を含めた総重量が400~500kg程度あるため、ビジネスジェット機か、それより大きい航空機にしか搭載できなかった。そこで今回の新型レーダーでは、Pi-SAR2と同等の性能を維持しつつ、人間1人程度のサイズと重量にした。「新型レーダーの体積は従来機(Pi-SAR2)の2割程度、重量は100kg程度」(NEC)という。低価格化も見込めるため、地方自治体レベルで配備できるようになる。