グーグルカーに欠かせないのが高精度な地図データだ。同車は地図がない地域を基本的に走れない。先行する米Google社を追いかけて、世界で地図データの開発が始まった。重要になるのが、線データへの自動変換技術とリアルタイム情報の解析技術。ディープラーニングを活用し、最新の地図に車両が自ら更新する研究も進む。
「最後は“線”だけになる」─。
自動運転車向けの地図データの開発に、日本でいち早く取り組むアイサンテクノロジーの佐藤直人氏(MMS事業部部長代理)は、地図の究極の形をこう見据える。
“線”とは、高い精度の地図データ上に描く、走行ラインを示すベクトルデータを意味する(図1)。基本的に車線の中心線で、場所に応じて走る方向や制限速度といった交通規則の情報を埋め込む。交通規則に基づき、“線”からずれないように車両を制御すれば、目的地に自動でたどり着く自動運転車になるわけだ。
グーグルカーに使う地図も線データで構成される(図2)。同社が公表する地図データには、車線の中心に走行ラインを描いてある。
もちろん道路上には多くの車両が行き交い、歩行者などが横切る。線データだけに頼るとぶつかるため、自動ブレーキや自動操舵で衝突を避ける技術は欠かせない。それでも走る経路の考え方は、「線路を走る列車」を思い起こす。線路がなければ列車は走れない。グーグルカーが、地図データのない地域を走れないとされるゆえんである。
過去の自動運転車の開発では、赤外線レーザースキャナーで収集した点群の3次元地図データを使うことが多かった。線データに変えることで、「データ量を圧倒的に抑えられる」(佐藤氏)。
例えば日本の道路の総距離は約120万km。線データにすれば日本のすべての道路をカバーしたとしても、データ量は数Tバイトにとどまるとされる。一方、点群データはその何百~何千倍に達するだろう。計算量が膨大になり、現状の車載用途のプロセッサーやメモリーでは、走行範囲が極めて限られてしまう。
ただし線データだけで構成する地図は究極の形で、しばらくは自車位置を推定するのに必要な電柱や信号機などの特徴物の位置情報がいる。走行限界を示す路側帯やガードレール、縁石などの情報を使う可能性もある。線データだけの地図で走れるのは、GPSや準天頂衛星などを駆使して、特徴物がなくとも自車の絶対位置を正確に推定できる技術が完成してからになる。
アイサンテクノロジーは、相対誤差で1cm以内、絶対誤差で10cm以内と高い精度の線データで構成する地図データを開発している。現在、三菱電機が開発した5台の測量車両を日本で走らせて地図データを作っている。