ガッガッガッ─。2008年8月3日午前10時過ぎ、東京国際展示場(東京ビッグサイト)の西展示棟「アトリウム」の1階と4階を結ぶ上りエスカレーターが、異音を発してぎくしゃくした動きをみせたかと思うと、大勢の人を乗せたまま突如逆走して下降し始めた。当日開催のイベントに集まった大勢の来場者が、開場とともにエスカレーターに乗り込み、列の先頭が4階に着こうというまさにそのときだった。

 事故があったのは、4階展示会場へのメインの動線として設置された高さ15.8m、長さ約30mという長い上りエスカレーター。逆走によって乗っていた来場者が1階の乗降口に押し戻され、下層部にいた約50人が転倒。うち10人が負傷して救急車で運ばれた。エスカレーターはある程度逆走したところで、搭乗者が減って負荷が軽くなったためか停止した。

 事故当初は、イベントに詰めかけた来場者が一度に大挙して乗ったことによる「乗り過ぎが原因」との見方が強かった。しかし、本当の原因は別にあった。国土交通省の昇降機等事故調査部会(以下、調査部会)による調査の結果、低い安全率やボルトの緩みなどのずさんな設計・保守が明らかとなった。実は、本誌では、事故直後からエスカレーターに詳しい技術者などの見解を基に「乗り過ぎ原因説」に疑問を呈してきたが、それが実証された格好だ1)