DMM.comが設立した小規模事業者向けの開発・検証施設「DMM.Make AKIBA」の狙いは、アイデアさえあれば個人でもハードウエア企業を立ち上げられる環境を整えること。背景には、IoT(Internet of Things)という言葉が象徴する、エレクトロニクス業界の一大変化がある(日経エレクトロニクス2月号の特集「スマートマシンの目覚め」参照)。DMM.make AKIBAのキーパーソンである岩佐琢磨氏と小笠原治氏の2人に、日本のスタートアップや大手電機企業の進むべき道を聞いた。岩佐氏は国内家電ベンチャー企業の先駆けといえるCerevoのCEO(最高経営責任者)。小笠原氏はさくらインターネットの創業メンバーの1人で、IoT関連のスタートアップ企業などに投資するABBALabの代表取締役を務める。

インタビューに応じる小笠原治氏(左)と岩佐琢磨氏(右)(写真:加藤 康)

――民生機器の分野で日本の大手電機メーカーの存在感が薄くなっています。

岩佐 毎回同じことを言っている気がするんですけれども、やっぱり機器メーカーさんが新しい商品分野にチャレンジできなくなっている。50インチのテレビの後に51インチ、60インチを作ります、1080pの次に4Kや8Kをやりますというのはうまいんですが。じゃあ、今日から靴を作りますとか、今日から眼鏡を作りますみたいなところには、残念ながら誰も行っていない状況です。AIBOをやっていた時代のソニーのように新規事業にどんと入っていくというのもありますが、あんなに気合を入れなくてもいいと思うんです。

 例えばパナソニックから新規事業分野が一気に40分野、40商品出てきましたとなってもおかしくないくらい研究開発はなさっているんですけど、現状ではそれを判断できない状況なので、このままいくと海外勢やスタートアップにコア技術と部品だけを供給する部品メーカーになっていくのではないかと。

 いつも僕は2つの選択肢があると言っています。1つは、リスクを取らない人が怒られるような社内制度か何かを設けて、新規分野をひたすら攻める。それこそ1年間で、40品目出すぞと。社長命令でやれと言ったらできるわけですよ、彼らの人材、技術、資金をもってすれば。あるいは、もう徹底的に部品とソリューションとマテリアルに特化する。ひたすらそれを採用する新しい会社を自分たちで投資してつくっていって、いいものが出たらばんばん買収して本体に接合していく。一種Googleなども近いことをやっていると思います。個人的には後者の方が世の中面白くなると思って、こういう場所で小笠原さんと一緒にやっているんですけど。

――外から見ていると、大きい会社はそちらの方向に向かっている気がします。

岩佐 だと思います。どっちのリスクを取るかですね。資金面でばんばんいろいろなところに投資をするリスクや、どこの馬の骨とも分からないスタートアップに極秘の部品や加工技術を出すという部分でリスクを取るか。あるいは、新規商品分野に参入して散々な目に遭うリスクを取るか。どっちかだと思うんです。リスクを取らず現状の打破はないというのは共通認識だと思うので。

 一方で日本の電子部品メーカーは、今潮目が来ていて、ハッピーなんだと思います。世界最高レベルの部品をゼロから開発できる能力を持っていて、唯一戦うべきは中国や新興国の部品メーカーだけ。全世界で見るとハードウエア・スタートアップの波は明らかに来ていて、日本や台湾やアメリカですごい勢いで、さあ、やるぞと頑張っている。起業家、投資家、流通、販売も含めて盛り上がっているので、僕が大手部品メーカーの幹部だったら、今がチャンスだと言って攻めますね。実際オムロンさんはオムロンベンチャーズをつくって投資も始めていますし。投資でなくても、特定の会社を見つけて、そこに極秘の技術を出してあげるから、その代わりこれを使ってすごいものを作ってくれなど、うまい契約をすればいい。その会社が、その技術を盛り込んだ独自デバイスを使って素晴らしいものを作れば、いや、あれはうちのデバイスなんですよと言ってほかに売り込んでいける。部品メーカーさんは、今、非常にいい時期に来ていらっしゃるなと思いますね。