今回は、シミュレーションによるシステムの分析と検証について、事例を紹介しながら説明する。シミュレーションには、本連載でこれまで解説してきたような実行可能なモデルを用いる。シミュレーションを利用することは、システムの検討のサイクルを早め、仕様の不備などに起因する手戻りの減少に役立つと考えられる。(本誌)

 今回は、シミュレーションによるシステムの分析と検証について説明し、標準仕様であるFMI(Functional Mock-up Interface)を用いた2つのシミュレーション事例を紹介する注1)。シミュレーションの利用は、検討のサイクルを早め、仕様の不備などに起因する手戻りの減少に役立つと考えられる。また、開発初期段階でシミュレーション環境を構築しておくことで、システム開発の段階に応じてモデルの抽象度を変えながら、一貫した環境下で検証できるようになる。モデル交換や連成シミュレーションを支援するツールを使えば、過去の設計資産やデータを有効に利用しやすくなると考えられる。

注1)連載の前回では、工学的な解析を行うための実行可能なモデルを作成する手法である、ボンドグラフについて説明した。今回は、この実行可能なモデルを用いたシミュレーションによるシステムの分析と検証について説明する。

分析・検証とシミュレーション

 個別の技術領域(ドメイン)、例えば電子回路設計では、電子回路モデルを用いたシミュレーションによる分析や検証が行われてきた。シミュレーションモデルの作成方法や設計ツールの発展、FMIの整備などにより、複数技術領域(マルチドメイン)をまたぐシステムについても、シミュレーションの実行が容易になりつつある。

 本連載の第1回目では、モデルベース・システムズエンジニアリング(MBSE:Model Based Systems Engineering)でのシステムモデルは「現実のシステムを抽象化したもの」であると述べている1)。システムをモデルとして記述するためのシステムズモデリング言語「SysML(Systems Modeling Language)」では取り扱うモデルを図的に表現することで、図中の各要素間の関係性を理解しやすくする。SysMLの図の1つであるパラメトリック図では、各要素の入力と出力の関係を定量的に表す。さらに、パラメトリック図の各要素をシミュレーションの実行が可能なモデルと関連付けた上でシミュレーションを行うことで、システムの振る舞いを確認し、定量的に検証できる。

 連載の第1回目で説明したIEEE 1220が定義するシステムズエンジニアリングプロセス1),2)を、図1に再掲する。この図には機能アーキテクチャーを検証する「機能の検証」、物理アーキテクチャーを検証する「設計の検証」の2つの検証のステップが含まれている。機能と物理のアーキテクチャーを決定する際には、それぞれについてトレードオフ分析と評価が繰り返し行われる。MBSEではシステムモデルを記述してこれらを行う。

図1 IEEE 1220で定義されているシステムズエンジニアリングプロセス
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