以前、この欄で雑誌の現状から製造業の将来像を透かし見る試みをしました。今回は逆に、ものづくりの潮流から記事作りのヒントを得てみたいと思います。キーワードは「Additive Manufacturing」。3Dプリンターが採用する製造方法を表す言葉です。日経テクノロジーオンラインの解説によれば、「塑像のように材料を付加しながら製造していく造形方法」のこと。切削加工などの「Subtractive Manufacturing(除去加工)」と対になった用語です。

 この言葉が気になったのは、我々が叩きこまれた記事作りは「削って作る」が基本だったからです。例えばある特集記事を企画したとします。何件も何件も取材に回ると、本を1冊書けるのではと感じるほどの情報が集まります。それでも実際に記事に載るのはそのごく一部です。紙面が限られているのはもちろん、記事に必要ない話題は「雑音」として削ってしまうのです。その上、構成や文章をじっくり練るので、公になるまでにそれなりの時間がかかります。

 最近思うのは、もっとAdditiveに記事を作ってもいいのではないかということです。本号の特集「Pepperのいる生活」や解説「次世代通信規格『5G』始動、10Gビット/秒が手元に」の背後には、そういう発想があります。いずれも、通常の特集や解説より取材件数もページ数も少なめですが、聞いてきた話をなるべくたくさん盛り込んで、できるだけ早く誌面に載るようにしました。実は「5G」の記事は、もっと深い取材ができる秋以降に掲載を延ばす案もあったのですがスピードを優先しました。後から聞ける話は、後から別の記事を追加すればいいと判断したのです。

 我々を後押しするのは、めまぐるしく移り変わる時代です。読者の利益に資するためには、最先端のトレンドの変化点を逐一示した方がいいと考えています。ご想像の通り、インターネット上の情報ソースとの競争もあります。我々にも「日経エレクトロニクスDigital」というWeb媒体があり、ネットと紙を連携したより良い情報発信の姿を現在模索しているところです。

 ものづくりと情報発信は別の領分の営為であり、今回の比喩には大きな綻びがあります。例えばAdditive Manufacturingでは、あらかじめコンピューター上に緻密な設計図があります。Additiveな情報発信には、最終的な成果物のひな形はあるのでしょうか。全ては編集長の頭の中に、と強弁することはできます。真偽のほどは今後の誌面でご確認下さい。